「日本の労働生産性はなぜ低いのか」(2)
このことについては以前同じタイトルで、その要因について種々考察したが、江上剛氏がこの日本の労働生産性が低い原因について記述している記事を最近見つけたので、参考までに記しておく。(2021年11月の時事通信社「金融財政ビジネス」の掲載記事)
同氏は自身の体験と照らし合わせ、この中で、生産性が低いのは「ホワイトカラーの無意味な労働」に原因があるとして、このことに焦点を当てて述べている。
(このこと自体については当方も同感である。無駄な(無意味な)仕事は排除すべきだが、一方仕事にはゆとりが必要で、それが結果的には生産性の向上にも繋がるという当方の考えは今でも変わらない。)
*蛇足だが(本件とは関係ないが)、無駄にも色々あり、傍から見ると一見無駄に思える事でも、当人にとってはそうでないこともある。(例えば趣味などはその例だろう)。また無駄と思ったことでも、後になって役に立った、有益だったということもあるので(研究者の発明、発見などはその例だろうか)、この点は留意しておく必要がある。
「日本にあふれる「無意味な労働」、生産性が低いのはこれのせいだ」(江上剛)(以下要点のみ抜粋)
「◆くだらない書類作り
日本の労働生産性は低いと言われる。日本生産性本部によると、日本の労働生産性は19年度、主要7カ国(G7)で最低だった。
日本は47.9ドルだが、米国は77ドル。6割にとどまっている。統計をさかのぼれる1970年以降、日本はG7最下位が続いている。
本当だろうか。どうも私の実感に合わない。日本は中小企業が多いことが、労働生産性の低さの原因だと言われるが、世界に冠たるモノづくり国家を標榜していたにもかかわらず、ずっと労働生産性が低いと言われ続けるのは納得がいかない。
これは、ホワイトカラーの生産性が低いからではないのか。ホワイトカラー、すなわちオフィスワーカーの生産性が低いのだと思う。
私は、銀行に勤務していたが、本部勤務の際、くだらない書類作りに追われていたのを覚えている。役員が書類を読みやすいように、主要な指標を黒いサインペンで囲むのだが、そのインクがにじみ、せっかく作成した書類を破棄した思い出がある。
書類をまとめるホチキスの止め方にも注意を払ったものだ。斜めに止めるか、縦に止めるか、役員ごとに好みがあるからだ。バカバカしいと思いながらも、真夜中まで残業して書類作成に励んでいた。
営業活動でも、やたらと無駄な電話をし、見込み客を見つけ、その家(会社)に何度も訪問する。名刺100枚置いて初めて商談にかかることができると教えられたものだ。
顧客データの分析などそっちのけでひたすら体力勝負、ひたすら訪問回数を上げることのみを頑張っていた。
こんなことをしていて労働生産性が上がるわけがない。工場勤務の人に申し訳ない。
◆なぜ賃金は上がらない?
興味深いデータがある。日本も同様だが、労働生産性が上がっても、労働者の賃金は上がっていないのだ。
ではなんのため、誰のために労働生産性を上げようとしているのか。
それは一握りの経営トップ、株主などのためである。
「1970年代に、生産性の上昇と報酬の上昇は分岐していく。つまり、報酬はおおよそ平行線をたどっているのに対し、生産性は飛躍的に上昇しているのである」(「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)の理論」)と、著者のデヴィット・グレーバーは指摘し、生産性上昇から得られた利益は、1%の最富裕層、すなわち投資家、企業幹部に流れたという。
そしてグレーバーがもう一つ、興味深い指摘をするのが「生産性上昇による利益のかなりの部分がまた、まったく新しい基本的に無意味な専門的管理者の地位、(中略)ーーたいてい同じく無意味な事務職員の一群がともなっているーーをつくりだすために投入されているのである」(同書)ということだ。
すなわち工場で労働生産性を引き上げても、私が銀行の本部で働いていたような無意味な作業に、その利益が投入され、私は、そのお陰で高給(?)を食(は)んでいたのだ。
グレーバーは、私たちの労働現場には無意味、無駄な労働(ブルシット・ジョブ)があふれているという。
ブルシットとは牛のふんの意味だ。牛のふんを乾かして燃料にする国もあるから、あながち全く役に立たないとは言えないのだが、そんな余計なことはさておき、確かにブルシット・ジョブが多い。
これがホワイトカラーの生産性を下げ、全体の労働生産性をも下げているのだろう。
そのためだろうか、米国のギャラップ社によると、日本の会社員はたった6%しか仕事に熱意を持っていない(2017年発表)という驚きのデータを公表した。
米国は31%だから、その差は大きい。同社が調査した139カ国中、132位と最下位に近い。日本の会社員は、毎日、「面白くないなぁ」「つまらないなぁ」と思いつつ、仕事をしているふりをしているということだろうか。」
(時事通信社「金融財政ビジネス」より)
[筆者紹介]
江上剛(えがみ・ごう) 早大政経学部卒、1977年旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。総会屋事件の際、広報部次長として混乱収拾に尽力。その後「非情銀行」で作家デビュー。近作に「人生に七味あり」(徳間書店)など。兵庫県出身。
(参考)記事の全文はこちらから
「日本にあふれる「無意味な労働」、生産性が低いのはこれのせいだ[江上剛コラム]」
「JIJI.COM」(2021年11月21日)
https://www.jiji.com/jc/v4?id=20211121ega0001
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