宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

『詩ノート』より

2016年10月05日 | 『詩ノート』
            『詩ノート』より 〈七四四 病院〉 〈七四五 〔霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ〕〉 〈一〇〇一 汽車〉 〈一〇〇二 〔氷のかけらが〕〉 〈一〇〇三 〔ソックスレット〕〉 〈一〇〇四〔今日は一日あかるくにぎやかな雪降りです〕〉 〈一〇〇五〔暗い月あかりの雪のなかに〕〉  〈一〇〇六〔こんやは暖かなので〕〉  〈一〇〇七〔たんぼの中の稲かぶが八列ばかり〕〉  〈一〇〇八〔赤い尾を . . . 本文を読む

〈藤根禁酒会へ贈る〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇九二    藤根禁酒会へ贈る        一九二七、九、一六、    わたくしは今日隣村の岩崎へ    杉山式の稲作法の秋の結果を見に行くために    ここを通ったものですが    今日の小さなこの旅が    何といふ明るさをわたくしに与へたことであらう        …(略)…    この会がどこからどういふ動機でうまれ    それらのびらが誰から書かれ    誰にあちこ . . . 本文を読む

〈一〇九〇〔何をやっても間に合はない〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇九〇    〔何をやっても間に合はない〕    何をやっても間に合はない    世界ぜんたい間に合はない    その親愛な仲間のひとり        また稲びかり    雑誌を読んで兎を飼って    その兎の眼が赤くうるんで    草もたべれば小鳥みたいに啼きもする        何といふ北の暗さだ        また一ぺんに叩くのだらう    さうしてそれも間に合はない . . . 本文を読む

〈一〇八九 路を問ふ〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八九    路を問ふ         八、二〇、    二時がこんなにくらいのは    時計の中までぬれたのか    本街道をはなれてからは    みちは倒れた稲の中だの    陰気なひばや杉の影だの    まがってまがってここまで来たが    里程にしてはまだそんなにもあるいてゐない    そしていったいおれの訪ねて行くさきは    地べたについた北のけはしい雨雲だ    . . . 本文を読む

〈一〇八八 祈り〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八八    祈り      一九二七、八、二〇、    倒れた稲を追ひかけて    これからもまだ降るといふのか    一冬鉄道工夫に出たり    身を切るやうな利金を借りて    やうやく肥料もした稲を    まだくしゃくしゃに潰さなければならぬのか    電気会社が    ひなかも点すこのそらのいろ    田ごとにしめも張り亘し    かながらの幣さへたてゝ    稔 . . . 本文を読む

〈一〇八七〔ぢしばりの蔓〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八七    〔ぢしばりの蔓〕    一九二七、八、二〇、    ……ぢしばりの蔓……    もう働くな    働くことが却って卑怯なときもある    夜明けの雷雨が    おれの教へた稲をあちこち倒したために    こんなにめちゃくちゃはたらいて    不安をまぎらさうとしてゐるのだ    ……あゝけれども またあたらしく       西には黒い死の群像が浮きあがる     . . . 本文を読む

〈一〇八六 ダリヤ品評会席上〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八六  ダリヤ品評会席上  一九二七、八、十六、    西暦一千九百二十七年に於る    当イーハトーボ地方の夏は    この世紀に入ってから曾って見ないほどの    恐ろしい石竹いろと湿潤さとを示しました    為に当地方での主作物 oryza sativa    稲、あの青い槍の穂は    常年に比し既に四割も徒長を来し    そのあるものは既に倒れてまた起きず    ある . . . 本文を読む

〈一〇八五〔午はつかれて塚にねむれば〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八五   〔午はつかれて塚にねむれば〕  七、二四、    午はつかれて塚にねむれば    積乱雲一つひかって翔けるころ    七庚申の碑はつめたくて       (田の草取に何故唄はれぬのか        草刈になぜうたはぬか        またあの崖の灰いろの小屋        籾磨になぜうたはないのか)    北の和風は松に鳴り    稲の青い鎗ほのかに旋り    き . . . 本文を読む

〈一〇八四〔ひとはすでに二千年から〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八四   〔ひとはすでに二千年から〕      一九二七、七、二四、    ひとはすでに二千年から    地面を平らにすることと    そこを一様夏には青く    秋には黄いろにすることを    努力しつゞけて来たのであるが    何故いまだにわれらの土が    おのづからなる紺の地平と    華果とをもたらさぬのであらう    向ふに青緑ことに沈んで暗いのは    染汚の . . . 本文を読む

〈一〇八三〔南からまた西南から〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八三   〔南からまた西南から〕    一九二七、七、一四、    南からまた西南から    和風は河谷いっぱいに吹く    七日に亘る強い雨から    徒長に過ぎた稲を波立て    葉ごとの暗い露を落して    和風は河谷いっぱいに吹く    この七月のなかばのうちに    十二の赤い朝焼けと    湿度九〇の六日を数へ    異常な気温の高さと霧と    多くの稲は秋 . . . 本文を読む

〈一〇八二〔あすこの田はねえ〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八二    〔あすこの田はねえ〕    一九二七、七、一〇、    あすこの田はねえ    あの品種では少し窒素が多過ぎるから    もうきっぱりと水を切ってね    三番除草はやめるんだ        ……車をおしながら           遠くからわたくしを見て           走って汗をふいてゐる……    それからもしもこの天候が    これから五日続いたら、 . . . 本文を読む

〈一〇八一〔沼のしづかな日照り雨のなかで〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八一   〔沼のしづかな日照り雨のなかで〕    一九二七、七、一〇、    沼のしづかな日照り雨のなかで    青い芦がおまへを傷つけ    かきつばたの火がゆらゆら燃える    雨が、雲が、水が、林が    おまへたちでまたわたくしなのであるから    われわれはいったいどうすればいゝのであらう    けりが滑れば    黄金の芒               〝『詩ノ . . . 本文を読む

〈一〇八〇〔栗の木花さき〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇八〇  〔栗の木花さき〕    一九二七、七、七、    栗の木花さき    稲田いちめん青く平らな    イーハトーヴの七月である        洞のやうな眼して        風を見つめるもの……    はんのきと萓の群落    さわやかによしは刈られて    今年も燃えるアイリスの花    またわづかにひかる あざみの花    幾重の山なみに雲たゝなびき    月見 . . . 本文を読む

〈一〇七九〔わたくしが ちゃうどあなたのいまの椅子に居て〕〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇七九   〔わたくしが ちゃうどあなたのいまの椅子に居て〕  一九二七、七、一、    わたくしが    ちゃうどあなたのいまの椅子に居て    あなたがわたくしを訪ねて来られましたとき         ……アカシヤの枝ゆらゆらゆれる……    わたくしの云ひましたこと表情しましたことが    もしかあなたを傷つけはしませんでしたでせうか         ……崩れて光る夏の雲…… . . . 本文を読む

〈一〇七八 〔金策も尽きはてたいまごろ〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇七八    〔金策も尽きはてたいまごろ〕       六、三〇、    金策も尽きはてたいまごろ    まばゆい巻層雲に    銀いろに立ち消えて行くまちのけむり               〝『詩ノート』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。  本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しておりま . . . 本文を読む