宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

104 みみずく森と六角山

2008年12月28日 | Weblog
 賢治の詩『地主』の中に”みみずく森および六角山”という2つの未詳の山が登場している。
 因みにその詩は
   水もごろごろ鳴れば
   鳥が幾むれも幾むれも
   まばゆい東の雲やけむりにうかんで
   小松の野はらを過ぎるとき
   ひとは瑪瑙のやうに
   酒にうるんだ赤い眼をして
   がまのはむばきをはき
   古いスナイドルを斜めにしょって
   胸高く腕を組み
   怨霊のやうにひとりさまよふ
   この山ぎはの狭いで
   三町歩の田をもってゐるばかりに
   殿さまのやうにみんなにおもはれ
   じぶんでも首まで借金につかりながら
   やっぱりりんとした地主気取り
   うしろではみみづく森
   六角山の下からつゞく
   一里四方の巨きな丘に
   まだ芽を出さない栗の木が
   褐色の梢をぎっしりそろへ
   その麓の
   月光いろの草地には
   立派なはんの一むれが
   東邦風にすくすくと立つ
   そんな桃いろの春のなかで
   ふかぶかとうなじを垂れて
   ひとはさびしく行き惑ふ
   一ぺん入った小作米は
   もう全くたべるものがないからと
   かはるがはるみんなに泣きつかれ
   秋までにはみんな借りられてしまふので
   そんならおれは男らしく
   じぶんの腕で食ってみせると
   古いスナイドルをかつぎだして
   首尾よく熊をとってくれば
   山の神様を殺したから
   ことしはお蔭で作も悪いと云はれる
   その苗代はいま朝ごとに緑金を増し
   畔では羊歯の芽もひらき
   すぎなも青く冴えれば
   あっちでもこっちでも
   つかれた腕をふりあげて
   三本鍬をぴかぴかさせ
   乾田を起してゐるときに
   もう熊をうてばいゝか
   何をうてばいゝかわからず
   うるんで赤いまなこして
   怨霊のやうにあるきまはる

    <『校本 宮澤賢治全集 第四巻』(筑摩書房)より>
というものである。
 そして、この下書稿である『村の政客』は
   水もごろごろ鳴れば
   鳥が幾むれも幾むれも
   まばゆい東の雲やけむりにうかんで
   小松の野はらを過ぎるとき
   この人は瑪瑙のやうに
   うるんで赤い眼をして
   がまのはむばきをはき
   胸高く腕を組んで
   ちがった熱い桃いろの春を
   怨霊のやうにひとりさまやふ
   うしろでは鳥ヶ森
   八方山の下からつゞく
   一里四方の巨きな丘に
   まだ芽を出さない栗の木が
   褐色の梢をそろへ
   その麓の
   月光いろの草地には
   立派なはんの一むれが
   東方風にすくすくと立つ
   このうつくしいのなかで
   ふかぶかとうなじを垂れて
   ひとはさびしく行き惑ふ
   苗代はいま緑金を増し
   畔では羊歯の芽もひらき
   すぎなも青く冴えれば
   あっちでもこっちでも
   三本鍬をぴかぴかさせ
   乾田を起してゐるときに
   ひとはがまのはむばきをはき
   うるんで赤いまなこして
   その政敵への復讐をかんがへながら
   怨霊のやうにそこらをあるく

   <『校本 宮澤賢治全集 第四巻』(筑摩書房)より>
となっている。
 すなわち、
   うしろではみみづく森や
   六角山の下からつゞく
   一里四方の巨きな丘に

の部分が、最初は
   うしろでは鳥ヶ森や
   八方山の下からつゞく
   一里四方の巨きな丘に

であったことになる。
 それぞれの山の名の部分だけが置換されていることから
   みみずく森=鳥ヶ森
   六角山=八方山

という図式になる。

 では
《1 西根山の峰々》(平成20年12月26日撮影)

をイギリス海岸付近から眺めてみよう。この右側に
《2 鳥ヶ森と八方山》(平成20年12月26日撮影)

がある。左の尖った山が鳥ヶ森、右のなだらかな山が八方山である。
 ここで
《3 ズームアウトすると》(平成20年12月26日撮影)

となるが、ここで注目してほしいのはこの写真の
《4 左側の山々》(平成20年12月26日撮影)

である。
 日頃からこの山々の方が私にとっては”みみずく”に似ていると思えてしょうがない。双耳峰だからみみずくのまさしく”みみ”に見えるからである。
 多分、このみみずく森は”方面山(かたづらやま、749m)”の西側にある無名峰(東側の峰は857m、西側の峰は850mちょっと)だと思う。

 なお、この方面山こそがみみずく森ではなかろうかと推論している人もいるという。

 でも、こうなると先程の図式が破綻する。今後もう少し多くの方向から鳥ヶ森を眺め、はたしてみみずくらしく見えるか探ってみたい。 

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