このところ『昭和の名曲』と謳ったテレビ番組が多い。
どっぷりと昭和という時代に浸かってきた身にすれば、
特にその歌詞、情を含んだ直接的な思いが心に沁みてくる。
倍賞千恵子が営む小さな飲み屋。客は高倉健ただ一人。
側に座った倍賞が高倉にもたれかかり、高倉も倍賞の肩に腕を回す。
テレビから流れているのは八代亜紀の『舟唄』。倍賞が合わせて口ずさむ。
映画「駅」の一シーンである。もう随分前になる。
この『舟唄』も昭和の名曲の一曲であろう。
日本は何事においても世界のトップクラスにあると思っていた。
それが自負心でもあった。
だが、世界における日本のGDPシェアは下降の一途だ。
2023年の名目GDPは円安も響きドイツに抜かれ4位に転落、
さらに一人当たりGDPもОECD加盟28か国中22位まで転落し、
先進7か国でも最下位だ。
もはや「ジャパン・アズ・ナンバーワン」など遠い過去の話なのである。
やはり「失われた20年」が痛かった。
この期間に先進各国は2倍程度成長したのに対し、
日本は成長を止めGDPシェアを下げてしまったわけだ。
特にデジタル化の遅れは、これほどだったのかと驚くばかりだ。
「2024年版世界デジタル競争力ランキング」で日本は63カ国中31位、
それも前年から1つ順位を下げてのことだ。
政府は「デジタル庁」を設置するなどDX(デジタルトランスフォーメーション)促進に
官民挙げて本格的に取り組み始めている。
DXは、要するにビッグデータと、それにIoT、AI、クラウド、5Gなど
進化し続けるテクノロジーを最大限に活用した
新しいビジネスモデルを構築しようというものだ。
これによって、うまくいけば2030年にはGDPを
100兆~200兆円押し上げる可能性があるとも見られている。
そうとあって世の中、デジタル化、デジタル化である。
日本が再度成長するのに不可欠な方策とあれば、
これに異論をはさむ気はさらさらない。
「仕事はテレワークだし、会議も飲み会もオンライン。
当然、人と直接お会いし、話をする機会がなくなってきました。
デジタル化が進めば同じような状況が続くかもしれませんね。
情感が流れるあの昭和の世界が、何だか遠のいていくようで
いささか寂しい気もしてきますよ」
DXの必要性を1時間ほどものたまわった昭和世代の知人は、
そう言い残すようにしてオンライン会議のため席を立った。