「お散歩を続けたいの? それとも家に帰りたい?。
あんたね、若いんでしょう。若いもんはどちらにするか、さっさと決めるもんだよ。
さあ、さあ どっちにするか決めてちょうだい」
おばあさんに引かれた犬君はベロを出して激しくハアハアし、木陰の中から出ようとしない。
それで、ご主人様はイラっとされたのか、
「この暑さなのに、『ママ、お散歩連れて行って』とせがんだのはあんたでしょう。
ママだって暑くて熱中症になってしまいそうなのよ。
だからさっさと決めてちょうだい。あんた、若いんでしょう」と急かしているのである。
人にも、犬にも若いからといって決断力があるのかどうか。
おばあさんはそう思われているのだろう。
でも犬君はそう言われても、座り込んだまま動こうとしない。
どちらでもなく、一休みさせてほしそうだ。
この何とも微笑ましい光景の成り行きを最後まで見届けたいとも思ったが、
犬君が何だか照れ臭そうな顔をしてこちらを見ているから、
笑いを含ませながら通り過ぎることにした。
すると、後ろからまた「若いんだから……」との声が聞こえる。
もう、こらえきれない。とうとう、笑いが声になって出てしまった。
犬をペットとしている人は多い。
犬に限らずペットというものを飼ったことのない、この爺さんにすれば、
「それほどまでに」と思えるほどの情愛を見せる。
確かに、テレビなどで見る犬や猫たちの何とも言えない
愛らしい仕種には癒されることが多いから、
実際、側にいて愛嬌をふりまかれるとなると、なおさらのことであろう。
中には、愛犬、愛猫を亡くし、ペットロスに陥る人もいるそうだから、
それもまた分かるような気がする。
「若いんだから、さっさと決めなさい」との言いようには、
おばあさんの犬君に対する愛情がたっぷりと──
だって、おばあさん笑顔だったからね。