夜更けの交差点。信号は赤。
中年の男性がポツンと一人立っている。
右を見ても左を見ても、1台の車のライトもなく、
歩道を渡ろうと思えば何の心配もなく渡れるはずだ。
だが、その出版社の社長は青に変わるまでじっと待っている。
そんな社長の様子をたまたま見かけた社員が「どうしてなのか」問うた。
それに対する答えが、「少しばかりの徳を積んでいるのだよ」だった。
随分前のテレビドラマの1シーンだが、
このシーンだけは今でもよく覚えている。
「徳を積む」とは分かっているようで、
実際には何をどうすればそうなのか、よくは分からない。
改めて調べてみると、こう書いてあった。
まず「徳」=善行、つまり人に礼、見返りを求めない良い行い、とある。
だから「徳を積む」というのは、
簡単に言えば「人が見ていないところでも善行する」ということだろう。
テレビドラマのシーンが、まさにそのようなことだと思う。
他にどんなことがあるだろう。
「寄付や募金をする」「汚れている所があれば進んで掃除をする」
「下心なく相手が喜ぶことをする」――さしずめ、こんなことが思いつく。
まだまだ、いろいろとあるはずだ。
だが、今挙げたことだって「言うは易し」の類のことである。簡単なことではない。
さらに調べていくと、「徳を積む」第一歩は「愚痴らないこと」とあった。
これとて「言うは易し」であろう。
日本の政治のありさまにしても、何やかやの事件、事故。
つい愚痴りたくなろうというものだ。