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元名大生裁判を取材して 河北新報社報道部・斉藤隼人(32)

2017年04月03日 | ヒトゴロシ

<タリウム事件>衝撃の真相 消えぬ「なぜ」

無期懲役を宣告された元名古屋大女子学生(21)=事件当時未成年、仙台市出身=の裁判員裁判を名古屋地裁で取材した。殺人や劇物のタリウム混入など六つの事件を次々に起こし、1人を殺害し、5人を殺そうとした。新聞の見出しだけを見れば「史上まれに見る少年凶悪犯」に違いない。ただ、約2カ月半、計22回の公判を傍聴してきた立場からすると、少し異なる所感を抱いた。


1月16日の初公判で、元名大生が裁判長から本人確認を求められた。ついに肉声を聞くことができた。「はい、間違いありません」。やや高く、幼さの残る声に思わず息をのんだ。

黒髪は目元まで伸び、マスクで顔の大部分は覆われていた。証言台でマスクを外した素顔はあどけなさを残していた。凶悪事件の数々を起こした「モンスター」のイメージは、3メートル先の小柄な女性と結び付かなかった。

法廷での所作はまるで就職の面接のようだった。渡された長文の公判資料を黙々と読み、質問にはきはきと答える。動じることなく淡々と話す一方、丁寧な言葉遣いと、節目節目にお辞儀する礼儀正しさが印象に残った。判決を含めて計22回を数えた公判は最長8時間に及んだが、最後まで疲れた様子を見せなかった。

他方で元名大生が発する一言一言は、胸をえぐられるほど衝撃的だった。

 「生物学的なヒトなら誰でも良かった」

 「人を殺したい気持ちは今も週1、2回生じる」

 「個々がかけがえのない人だという感覚がない」

殺意の矛先は家族や親友にとどまらず、法廷の裁判官や弁護人、傍聴者にも向けられた。

異様過ぎる供述の数々を聞き、当初は、重い精神障害による無罪を主張する弁護方針に沿った「戦略」と感じた。だが、傍聴を重ねるにつれ、法廷戦略という皮相な見方を改めた。

精神鑑定をした3人の医師に共通していたのは、元名大生が広汎性発達障害で他者への共感性が欠けているという点だった。


「相手がどう思うか」に無頓着な上、深い反省ができない。興味は著しく偏り、対象は偶然にも「人の死」や「人体の変化」に向かっていった。「心の闇」とくくられる他の少年事件とは本質的に異なり、供述や犯行はただ本能に「真っすぐ」に従っただけのようにも見えた。

必要なのは刑罰か医療か-。裁判で浮上した論点に最後まで頭を悩ませた。実は今も個人的には答えを出せないでいる。

元名大生は高校を卒業するまで仙台で過ごした。取材班は2015年の事件発覚当初から、事実の解明と並行し、「事件を食い止められなかったか」を念頭に取材を進めてきた。

関係者の証言が集まるにつれ、「なぜ」という疑問が急速に膨らんだ。劇物を教室で同級生になめさせるなど、問題行動は16歳前後に顕著になった。家族や高校、同級生、さらに警察と数多くの関係者が危険な「兆候」を感じ取っていた。
 
高校は、被害男性のタリウム中毒が判明し、劇物混入事件につながる可能性をつかんだ後も積極的な調査を怠った。宮城県警は視力が著しく低下した被害男性から「クラスに変な子がいる」「白い粉を周囲になめさせていた」と決定的な情報を得ていたのに聴取すらしなかった。

19歳で名古屋の知人女性を殺害するまで、いくつもの不作為が積み重なった。「結果論だ」と自己弁護をするのはたやすい。ただ、「人を殺してみたかった」という理不尽な理由で命を奪われた女性と遺族、研究者への夢を絶たれた元同級生らの立場に立って、真摯(しんし)に省みる必要がある。

社会を震撼させた事件の実相と彼女の人物像を正確に報じることができたのか-。新聞記者として今も自問している。


[元名大生殺人・タリウム混入事件]名古屋地裁判決によると、2014年12月に名古屋市昭和区の自宅アパートで知人の森外茂子(ともこ)さん=当時(77)=を殺害。仙台市内の私立高に通っていた12年5~7月、中学と高校の同級生男女2人に硫酸タリウムを飲ませ、殺害しようとした。元名大生は広汎性発達障害やそううつ病を抱えていたが、3月24日の地裁判決は完全責任能力を認め、「複数の重大かつ悪質な犯罪に及んでおり、罪は誠に重い」として無期懲役を言い渡した。


(河北新報 4/3)

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