但馬に吹くみどりの風 粟鹿山の麓に舞うオオムラサキ    

地球規模で自然と人間が共生できる社会を理想とし、全世界でその実現を追い求める多様な活動の情報を発信していく。

幼虫の生存率1%の意味

2016-08-26 10:57:56 | オオムラサキの飼育活動

 ケージでの飼育活動を始めて今年で3年目。オスとメスが半々の9頭の成虫が順調に成長し、交配し、産卵した。3年目にしてはじめて卵を見ることが出来た。最初は葉の裏側に産み付けられていた。第一発見者は「あわがこども園」の園児。背が低いからかがまなくても裏側がよく見える。でも多くは表側のようだ。ものの本によると寒い地方は表側に産むことが多い。少しでも温めれば早く孵化することを知っているのだ。一枚の葉に50個の卵。1回の産卵で100個産むというから、残りを別の葉の上に産んだのかも知れない。危険の分散化か。
 1週間後にケージをのぞくと、黒い帽子をかぶったような姿の数㍉の虫がうじゃうじゃ。それが数日後にはきれいに消え、帽子を脱いで2本の角をもった幼虫があちこちの葉の上に見られる。不思議なことに、1枚の葉の上には1匹。2匹いるケースは見かけない。産卵場所からの距離が遠い所では50センチはくだらない。自力で這っていったとはとても想像しがたい。親が口にくわえて運んでやったのかな。しかし蝶の口は何かをつかめる口ではない。もしかして足ではさんで運んでやったのか。
 もう一つの不思議なことは新生幼虫のいる場所が葉の先の部分で、向きが頭を葉の元の方に向けていることだ。普通、幼虫は葉の先端部分から食べる習性があるので先端部分にいるのはうなづけるが、にもかかわらず先端とは真反対の方向を向いていることは解せない。
 こうした不可解な行動に疑問をもちながら観察をつづけているうち、アマガエルとアリの存在に目を奪われた。かれらにとって1センチ前後の幼虫はまさに食べ頃。これは一大事。指で挟んで潰そうとするが、アマガエルはすばしこい。ケージの中は5~10センチの草むら。かれらの棲息には適地に違いない。以後しばらくは、ケージに来るたび、見つけたらひねりつぶす日々をつづけた。アマガエルとアリによって食べられ、オオムラサキの新生幼虫は悲しい程までに減らされた。幼虫の生存率は1%というのが、この生物界では常識だそうです。
 そのうち梅雨もあけ、真夏の暑さの登場と共に、幼虫の天敵も姿を消していった。私も落ち着きを取り戻し、お盆過ぎ、残った幼虫の数をかぞえてみた。
 Aのエノキ4、Bのエノキ4、Cのエノキ3(以上地植え)、鉢植えエノキ3本には各1~2。合計15匹。卵を産んだ形跡のない鉢植えのエノキにも1匹はいる。まるで見えざる神の手によって、均等になるようにばらまかれた如くである。この数値は、来年の春、それぞれのエノキが幼虫を養える数に相当する。今年は欲張って、40匹もの幼虫を放虫し、地植えの2本の木を丸裸にして、多くの幼虫を露頭にさまよわせ、のたれ死にさせた。考えてみると、天敵を排除しないことも生態系維持の点からは是認して良いのである。
 1匹の幼虫が成虫になるには、エサとしてのエノキの葉が40枚いるといわれている。それを分母にした割り算で出てくる数だけ飼育できると考えたらダメ。エノキの木としての本体を養うだけの葉は確保しておかねばならない。丸坊主にしてしまうと、枯れないまでも、次の葉が出てくるのに時間がかかりすぎ、肥え太った幼虫は餓死せざるを得ない。恐らく全体の4分の1位の量の葉を残すような余裕を持った飼い方が良いように思う。欲張りはやめましょう。
 それにしても生態系は微妙なバランスの上に成り立っていることをあらためて思い知らされた。ある生態系は人類の発生前から長年かけて形成されたもの、別のある生態系は人類自身の手で変更を余儀なくされ、次第に共存の形で安定してきたものと、さまざまあるに違いない。この社会は自然環境を土台にして成り立っている。それなのに自然環境様におうかがいも立てず、人間様の都合だけで強行し、生態系の琴線を不調にする「公共」工事なるものが多すぎる。埋め立て、造成、原発、リニア新幹線、宇宙開発等々。オオムラサキの飼育を通して、人間と生き物との関係、人間と自然環境との関係はいかにあるべきかを、深く考える契機にしていきたい。


和田山にオオムラサキの飼育家がいた

2016-08-25 23:23:07 | オオムラサキの飼育活動

 但馬では豊岡市の弥栄と朝来市朝来町にオオムラサキの飼育に取り組んでいる人がいることは知っていた。

しかしその方達は地元産の幼虫は飼育していなかった。地産の幼虫確保が私たちの悲願であった。その悲願が

叶うかも知れない。なんと、足元の和田山町糸井に、10年以上も前から、円山川流域で採取した幼虫で飼育してきた人がいたのである。

先日、その方を訪ねた。家の裏にはエビネランの温室、山から採取した植物の鉢植えの棚。直径50センチ以上の大きな鉢には、直径10センチもある馬酔木。

それが10鉢近くある。その並びに大小のエノキの鉢が20鉢以上。そしてその先には、2メートルの高さで芯止めされた地植えのエノキ。柔らかくて大きな葉が

付いた枝が無数に出ている。幼虫の飼育は、ケージではなく、その枝に洗濯機選択で使うネット袋をかけて飼育する。果樹の袋掛けのやり方だ。

残念ながら糸井の谷にはクヌギ林がなく、オオムラサキがいない。それで豊岡盆地に幼虫探しに行く。豊岡盆地の里山は、なぜかスギヒノキの人工林が少ない。

林業より農業が忙しかったからであろう。クヌギやナラガシワの雑木林がかなり残っている。私の実家のある日高町上郷はその典型で、コウノトリ市民研究所の

研究員の人が言うには、オオムラサキの棲息適地らしい。河畔林にはエノキの巨木群、里山にはナラ科の雑木林。

このような棲息適地のエノキの巨木の落ち葉を大きなビニール袋に詰めこんで持ち帰り、地植えのエノキの株元に積み上げておく。その中に幼虫が居れば、4月に

エノキのえだの分かれ目(股)に居る。大雑把なやり方だが、的を射ている。もっとも百発百中でない時のことを考えて、小さな鉢のエノキには、この夏に生まれた幼虫が

育てられている。備えあれば憂えなしとはこのこと。それでも、アマガエルやアリは天敵で、その対策は洗濯ネットですっぽりと覆うか、室内に持ち込むかだという。

このように、とにかく実践的な飼育の経験から生み出されたユニークなやり方に、教えられることは多い。

一人飼育だが、研究熱心。よく勉強されている。帰りがけに、2冊持っているからと、青森県の森一彦著「オオムラサキの繁殖法」という本をいただいた。

冬には豊岡にエノキの落ち葉拾いに行きましょうと約束して、2時間近い訪問を終えた。