田舎びと歳時記

花鳥風月、演歌と津軽に一筆啓上

父の落款(らっかん)

2008-04-13 22:20:35 | Weblog
昨日4月12日は父の命日でした。もう八年という歳月が過ぎ去ってしまいました。
散りゆく桜の後を追うように、旅立っていった父でした。享年73歳。

八か月に及ぶ2回目の入院時、亡くなる二か月程前のこと、急に色紙を買ってきてくれと言い出したのです。毎日を病に過ごすベットの中で、便せんに書き留めておいたのでしょう、かすれそうな鉛筆書きの詩や俳句がいくつもありました。
その中から気に入ったものを色紙に書いて、そこに落款を押すと言うのです。
父が落款まで作って持っていたとは、この時初めて知りました。

拙い文でしたが、詩や俳句は普段からしばしば作っていた父でした。
余命わずかな父の言いつけです。私も、もっと良い色紙をと思いましたが、あいにく、飛び込んだお店には望むような色紙は見つかりませんでした。
買い求めてきた色紙を差し出すと、『もっといいのは、なかったのか?』父は、ひどく不満のようでした。金粉でも散りばめたような高価なものが欲しかったのでしょうか。絶筆となるかもしれぬのに…! いつまで経っても親の気持ちのわからぬ子だな~ そんな声まで聞こえそうでした。

父が震える文字でしたため、その片隅に押した落款のあるあの色紙、三回忌の終わるまでは、しっかりと保管しておいたのですが今は行方知らずになってしまいました。母も私も、いつまでも亡くなった父のことを思っていては、故人が成仏出来ぬと考え、どこか手の届かぬ所へしまい込んでしまったようです。

桜も散り出し、ふと寂しさを感じます。散りゆく桜に父のことを思い出し、あの落款のことを思い出しました。

『文葉』それが、父の落款です。




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