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劇場アニメ「さよならの朝に約束の花をかざろう」評論

2018-11-11 21:46:21 | アニメ
◯岡田麿里による「我こそは東映動画劇場アニメ本流を引き継ぐものなり」という宣言
 あまりネタバレしないように書きたい。
 本作を一言で評すれば、2時間という制約の中で、生命としての人を描き、社会の中の人々を描き、戦争の中の群像を描ききったと言えようか。
 基本は、マキアとエリアルの物語ではあるが、メザーテ国王の軍隊や、諸外国の軍隊との衝突なども濃密な映像で描かれる。単に牧歌的な話に留まらず戦争がもたらす悲劇や社会への打撃なども物理的にも心理的にも描かれる。

 脚本としても序盤での様々な発言や行動が、後の伏線となっている。レイリアの跳躍や犬との死別が、類似の形で後に発生し、あたかも物語がきれいに収束する感じに捕らわれるように、計算されてできている。また、ネット評で言われる通り、滂沱の涙なくしては見ることのできない作品である。
 
 キャラクターデザインはどことなく元祖アニメーター森康二氏を思いださせるような雰囲気があり、重厚なストーリーテリングであることもあり、作品総体を見終わった感覚としては、岡田による「我こそは東映動画の正当な継承者なり!」という高らかな宣言を見た、とも感じた。
 
 アニメ界自体が多様化して、奇をてらうような作品が多いなか、完全に作品をコントロールできる監督という立場に立ち、あえて、日本アニメの本道を行くバランスが良く奥行きの深い作品を世に送り出したという意義は大きい。本作が他の作家への与える影響は絶大なものだろう。ポスト宮崎駿に足る人物が意外なキャリアから発生した、といえば分かりやすいだろうか。


◯時間の流れを遡らない岡田脚本
 「時をかける少女」劇場版や「魔法少女まどか☆マギカ」のヒットやラノベの台頭もあり、時間ループ(リープ)作品が増えた。時間が巻き戻る作品は構成を複雑にできるので、想像の幅が広がるという利点はあるが、話がややこしくなるのと、フィクションの度合いが強まって荒唐無稽感が出るという短所もある。
 私が知る限り岡田作品で時間が戻る作品はない。(回想とかは別とする)
この点では保守的であるとも言えるが、脚本家としての美学があるのだろう。
本作では長命な「イオルフ」を主人公に据えて、人の寿命を遥かに越えて生きる者の悲哀を描いている。時間軸を守る宣言のようにも思えた。

◯本作誕生までの経緯自体が叙事詩
 エンドロールのスタッフ名を見て、椅子がから飛び上がった。錚々たるメンバーが名前を連ねている。かつて、岡田と一緒に仕事をした人という人たちだけでは無いように見受けられた。
 ここ10余年の日本アニメーションは岡田麿里の時代といっても過言ではない。脚本家が自ら数多記した脚本により、カリスマ性を帯び、自らが掲げた旗の元に凄腕のアニメーターが参集し、映像としても優れた劇場作品に仕上がった事自体が壮大な叙事詩であるとも言えようか。


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