多喜二絶筆小説ともいえる「地区の人々」は、前年の「党生活者」と同じく作者自身のたたかいを踏まえた小説世界である。かなりのコンテンツが作者と作者周辺の人々の体験や情報として織り込まれている。ただし、当時は満州事変から「満州国建国」以後、急速に中国への侵略を拡大する日本ファシズムの確立期であり、多喜二の入党した日本共産党は創立時から合法的活動を禁じられる存在であり、その言論をこそ、天皇制政府は恐れ、文化分野の活動家に徹底した弾圧を下していたさなかの執筆だった。
特高警察は10月の党中央部指導者の集団検挙、拷問、虐殺のなかで壊滅に追い込んだはずだった。その弾圧にもかかわらず、共産党員作家小林多喜二が堂々と、ブルジョアジャーナルである『改造』誌に発表したものだった。特高の激怒も想像できようなものだ。その党中央と「地区」との連絡のさまを生き生きと描き、不死鳥たる共産党とその反貧困・反戦活動家たちとの交歓を描いた作である。
もちろん、当時の状況から、作者は奴隷の言葉を使わなくてはならなかったし、編集者は伏字、削除を余儀なくされたのではあるが、そのたたかいの「火」は確実に継承されたのだった。
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