線は、僕を描く
僕が線を描く筈なのに
でも、観終わって映画館の扉をくぐる時、なんの違和感も無い
正しく引かれた線は僕の生き様を描いているようだ
小説の読み方が著しく偏っていた頃があった。同じ作家の作品ばかり読み続け、底をつくと暫く何を読んだら良いか途方にくれた。図書館の棚にある「あ」の段にある作家を順番に読んでみたりもしたけど、ハズレの時は苦痛で斜めどころか横読み状態で読み飛ばす事への罪悪感もあり「す」の辺りでやめた頃本屋大賞が始まった
人気作品が多いからなかなか図書館で借りるのも骨が折れるけど、当て所もなく棚の間を徘徊するよりよっぽど良い
この映画の原作はそうした選択の中で出会った
水墨画という未知の世界を瑞々しく物語にしていたから、一気に読み切ったと記憶している
そんな魅力的な原作が映画化されるときいて楽しみに待っていた
監督は「ちはやふる」シリーズを心踊る映画に仕上げた小泉徳宏だから信頼もできる。佳作「タイヨウのうた」以降青春の息吹を真正面に描ける監督として期待している人だ
主人公もヒロインも原作の雰囲気に合っていると思う。横浜流星と清原果耶(着物姿がとりわけ美しい)の美男美女は現実感ないけど、演技力と雰囲気で最後まで見せ切った
脇を固めたベテランや若手も力量のある布陣で楽しませてくれる(ここにも河合優実が目立たずしっかり演じていた)
水墨画に限らず、好きなもの一生懸命になれるものを突き詰めている人は、真っ直ぐな線を引くことができる
それは最初から真っ直ぐでは無いかもしれないけれど、諦めなければ自分の意図した線は必ず描けるんだ
そうして描かれた線はきっと君の姿になる
小説では表現できなかった水墨の美しさや所作の大胆さがこの映画の肝になっていた
躍動する映画は美しいと、やっぱり感じさせてくれた