「たにぬねの」のブログ

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子どもが作った道_textoXXX

2011-03-21 01:23:49 | texto
子どもが作った道

◎ちゃんは学校が午前中に終わったので注文していた品物を取りに雑貨屋さんに行った。
お友達の○ちゃんへの誕生日プレゼントをとりに行くため。
◎ちゃんは、およそ2年前に△市から□市に引っ越してきて、○ちゃんとは転校後も手紙を中心に親交を深めていた。
◎ちゃんにとって、引越し当初の○ちゃんとの遣り取りは大変な励ましで、
今、たくさんいる□市の友人との日常も、あのときの○ちゃんの言葉のお陰だと感謝している、云々。
そんな大好きな○ちゃんへのプレゼントを受け取り、お店を出た。

雑貨屋さんからの帰宅の途、ハンバーガー屋さんに寄る。
お昼を食べていなかったことと、プレゼントに添える手紙の下書きをしようと思ったから。
注文を済ませた◎ちゃんは、窓際の席に座り、紙とペンを取り出した。
あーでもない、こーでもない、と
食べ物屋さんなので消しゴムを使わないようにとボールペンで書いた用紙の上には
斜線や傍線すら、楽しく踊っているように見える。
◎ちゃんの席に、バーガーのセットを持ってきた店員さんが
四つ葉のクローバーの種が入っている紙袋を添えた。
なんでも、今日と明日限定の特別企画だそうな。

パン、ペン、飲み、ペン、飲み、パン、……。
揺れる。




□市で救助活動を続ける隊員さんは、「おねがい」と聞こえた気がした。
その方向の折り重なりを除くと、今度は確かに声を聞いた。
更に取り除く。小さな紙片・紙袋を握る子どもの手の先が出てきた。
周囲に助けを求めた隊員さんは、手を休めず、声と手の主に呼びかけ、目が合う。
強く握られた指は幾分緩められ、
「おねがい、これを、△市の○ちゃんへ、△市の。中を読んでも構わないので、△市の…」
隊員さんは紙片と紙袋を手に取る。
「ありがとう」
その子どもは穏やかな表情を残した気がする。


紙に書かれた文字と袋の中の種がギリギリであったのであろう。
揺れ始め時とは異なる場所に閉じ込められたのであろう。
その子どもの身元が分かるものも文章中にあるプレゼントも子どものそばから見つからなかった。
でも、託された手紙から□市の◎ちゃんから△市に住む○ちゃんへの誕生日を祝うメッセージ、
○ちゃんの誕生日、年齢をしっかり読み取ることができた。

隊員さんから手渡しで何人かの人を介して、
△市に住む○ちゃんを知る人が手紙と種子が受け取り、その人は
○ちゃんのお父さん・お母さんに連絡・相談をして、
手紙と種と事実を○ちゃんに伝えることを決めた。

○ちゃんは□市に、今すぐ行きたいと、懇願するが父母は許可できない。
なぜ、◎ちゃんにお花を添えることが許されないのか、
○ちゃんには分かるけど、分からなかった。
○ちゃんとお父さん、お母さん、手紙と種子を運んだ人の前に
幾粒かの四つ葉のクローバーの種があった。
これまでの逆を辿れば、◎ちゃんがいたところに種を蒔くことぐらいは叶わぬことではないだろう。




危険物質拡散の回避され、幾ばくかの交通網の落ち着きをみせた頃、
○ちゃんはお父さん・お母さんと□市に来た。
あの日以来、○ちゃんはお父さん・お母さんとまともに口をきいてなかった。
数ヶ月前も遊びに来た街に入ると、○ちゃん家族を案内してくれた人が話し始めた。

「◎さんから預かったクローバーの種を○さんへ運び、その種の一部を持ち帰り、
今から、ご案内する所に植えさせていただきました。往き同様、種の復路も幾つかの手を介した次第です。
ただ、帰りには、介する人たちの気持ちがこもった支援物資が加わりました。
この時の往復は、私たちに手渡しによるルートをもたらしました。
同じ様なルートが幾つか出来ました。鍵付きの保管場所を設けることで柔軟性を増し、
手渡しによる多種多様多量輸送、大バケツリレーを実現したグループもいます。
物資により命が救われた人もいれば、
残念ながら命は救えなかったけど、穏やかに最後の時を迎えられた方もいらっしゃいました。
また、手紙の手渡しにより安否を伝えた、知った方々もたくさんいます。
◎さんの○さんに伝えたい強いオモイが多くを運ぶきっかけになりました。
大自然に対して、人は間違いなく無力に等しいのですが
それでも、強いか弱いか分からなくなります。

クローバーのお世話もたくさんの皆様がしてくれました。
○さんはお父さん・お母さんに怒っているようにも見えますが
□市に暮らす私たちも、あなたに見せたくないものと見せたいものがあり、
やはり、今日まで待っていただきたかったのです。」

家のプランターで種を蒔き、水をやり、植え替えをし、数を増やした四つ葉のクローバーと
同じクローバーを○ちゃんはみた。



(あとがき)
どうして、文字でお腹を満たすことができないのだろうか。
それができれば、私の拙い文章ですら、役に立つかもしれない。

呪文というのは、そんなオモイから生まれた概念かもしれない、今さらながら思う。
いずれにしろ、私から繰り出される言葉には何の力もない。

言葉だけではない。私だけではない。
今出来ていることに、素直に敬意を表したいとともに
科学技術は、まだまだであるということも実感せざる得ない。

今出来ること、これから目指すこと。
さっき託したものが今日・明日に間に合うことはないだろう。
届いた時、微力ながら、お役に立ちたいので、間に合わない今日・明日を頑張ってください。
大変な時にお願いばかりして、ごめんなさい。

今回の経験がこれから目指すことにつなぎたい。
いつか、お腹をいっぱいにできる言葉も実現できるかもしれない。


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