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『ゆきてかへらぬ』
根岸吉太郎監督
鑑賞日時:3/2(日)8:40〜
映画館:kino cinema新宿
文学的であること。あるいは文学的でありたいと願うこと。さらに言えば、文学的であることを必死に装うこと。根岸吉太郎監督と田中陽造脚本のこの新作は題材と物語から映像表現まで何もかも文学的色彩を纏った秀逸作となった。
たとえば長谷川泰子役が広瀬すずではなく、池田エライザだったらどうだったか?
観終わった後でしか思い浮かばない頭の片隅を過った程度の正直な感想ではあるけれども、では同じように観終わった後でしか思い浮かばない身勝手な想像として、長谷川泰子を広瀬すずが演じることになっていなかったら果たして私自身は映画館へ観に行っていただろうか?長谷川泰子のあの難しい性格を広瀬すずは見事に演じていたと思う。拍手を送りたい。
長谷川泰子に逃げられたからこそ、名もなき予備校生は詩人・中原中也(木戸大聖)になり得たし、長谷川泰子から逃げたからこそ、名もなき頭脳明晰な東京帝国大生は歴史的文芸評論家・小林秀雄(岡田将生)になり得た。
で、長谷川泰子は中原中也から去り、小林秀雄に逃げられたからこそ、名もなき女優が歴史の一面に浮かび上がった存在になり得たことも間違いない。
まさに徹底して文学的思考を駆使しなくては表現できないはずの3人の複雑な関係の映像化を見事に果たしている名作。