○ こんなはずじゃなかった、「ホワイト転職」の落とし穴。
「自分も良い転職をしたい」という発言をよく聞きますが、ここでいう「良い転職」とは何でしょうか。給与が上がり、職場の人間関係にも恵まれ、バランスの良い働き方ができるような企業に転職することを指す場合が多いでしょう。いわゆる「ホワイト企業」です。
しかし、ホワイト企業だからこそ不安を感じる人もいます。転職先について得られる情報が良いものばかりだと、かえって「何か裏があるのではないか」と懐疑的になるのです。
裏はなかったとしても、ホワイト企業に転職して思った以上に大変な目に遭うことは実際にあります。代表例を見てみましょう。
給与が上がった分、成果を求められる。
まず給与が大幅に上がる転職です。当然ながら、それに見合う働きが求められます。転職先では、「この人は本当に仕事ができるのか」と厳しい目を向けられる可能性があります。
当然、前職の企業やポジションなどについても関心を持たれます。どんなスキルやノウハウを持っているのか、それを自社でどう生かすのかが見られています。
処遇が恵まれているときこそ、早い段階で成果を出すことを意識したほうがよいでしょう。プレッシャーは大きいかもしれませんが、期待に応えようという気持ちで入社しましょう。
課長・部長など一定以上の職位で転職する場合は、試用期間でもしっかり評価をする会社も少なくありません。マネジメントクラスの採用に失敗すると、組織全体が壊れてしまう可能性もあるからです。試用期間中の3カ月、6カ月程度は、新卒の社員のようにきちんとルールを守り、真面目に仕事をしましょう。
昨今の求人難を考えると、今後は転職で思った以上の昇給が実現するケースも増えそうです。「自分の市場価値は高かったんだ」と有頂天になる人もいますが、こうしたときこそ気を引き締めてしっかり成果を残すことを意識しましょう。
実は大変な「フラット型組織」への転職。
転職によって職位が上がった場合はどうでしょうか。キャリアアップの大チャンスですが、やはり仕事が大変になることは覚悟しておくべきです。前職の感覚で「職位が上がってもやっていけるだろう」と思っていても、新しい環境のことを覚えるという作業が必要になります。その上でより責任ある仕事を任されるわけですから、負荷はかかります。
企業風土の違いもハードルになります。新しい組織風土で働くことは、意外に大仕事です。例えば「他人の名前を呼ぶときは役職名を付ける」のようなささいなことでも、慣れるまでは負担になります。社内の人間関係を把握し、それぞれの好き嫌いを推測して仕事を進めるといったことも必要になるでしょう。
職位による階層がはっきりしたトップダウン型の組織なのか、フラット型の組織なのかも大きな違いです。一般的には、フラット型からトップダウン型への転職のほうが大変そうに思われますが、そうとは限りません。
前職がトップダウン型の組織だと、そうとは気づかぬうちに、はっきりした指揮命令系統の下で仕事をすることに慣れてしまっています。それがいきなりフラット型の組織に入り、自分でリーダーシップを発揮してメンバーを巻き込んでいくとなると、大変さを感じる人が少なくありません。
命令されたことをするだけなら楽なのですが、それがなくなると「自分が何をどこまでやればよいか」を決められず、戸惑ってしまうのです。人によっては慣れることができずにやめてしまいます。「自由な風土」はホワイト企業の説明としてよく使われますが、それが自分に合うとは限りません。
ホワイト企業は「社内規定や業務プロセスがしっかりしている」といわれることもありますが、その分大変なこともあります。ちょっとしたことでも稟議(りんぎ)書が必要で手間がかかる、などは良い例です。稟議書を書く前に根回しが必要なケースもあります。自分の専門性を発揮する前に、社内プロセスに押しつぶされてしまう人もいます。
このように、「ホワイト企業」と呼ばれる企業でも、転職後に苦労することは少なくありません。入社前に可能な限り細かいところまで確認しておくと、不安も減るでしょう。