ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ドリーム・シナリオ

2025年02月24日 | ネタバレなし批評篇

日本では昨年の都知事選における石丸某のミーム戦術が話題になったが、IT本家アメリカでもバズりを故意に起こそうとする研究がおさかんなようなのだ。見るからに映えない大学教授ポール(ニコラス・ケイジ)を、複数の人々の夢の中に登場させたらどんな社会現象が起こるのか。スプライト販売元のコカ・コーラ社や、本作に登場するデジタル広告代理店ならずとも、そのデータにはさぞ興味津々なことだろう。

どうもIT業界はスマホを使っていない時でも人びとの会話を録音解析しマーケットに役立てようと企んでいたらしい。とすると後生身の人間に残された自由時間は睡眠時のみということになるのだが、無意識下にある集団意識の中に“インターセプション”できれば、物を買わせるなんて自由自在、場合によっては不正投票なんかもウィルスや金に頼らずともコントロールすることが場合によっては可能になるかもしれない。AIに代わる次の技術とはもしかしたらもしかするのである。

一度はバズって調子にのった石丸ならぬポールだが、映画冒頭旧約聖書から引用した【ファフロツキーズ現象】を娘の夢の中に登場させ、やがてダムネーション=天罰がポールに下ることを暗示する。ノルウェー人監督クリストファー・ボルグリは、処女作『シック・オブ・マイセルフ』の中で暴走する承認欲求を描いてみせたが、本作では承認欲求が満たされない男をさんざん持ち上げといてまっ逆さまに突き落とす、アメリカ人が大好きな【リアル・ファフロツキーズ現象】を見事に再現してみせている。

ポールが巻き起こした【This man騒動】はやがて【モルグ街の悪夢】へと発展。事実と異なる記憶を不特定多数の人が共有している【マンデラ効果】によって、当時いけてないライブパフォーマンスがパロディの標的にされたトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンのごとく、大学から停職処分を受け、子供たちからはガン無視、最愛の奥様からも別居を告げられてしまうのだ。現実社会では(多分?)何も悪いことをしていないのに、“独裁者”呼ばわりされたトランプ現大統領とおんなじだ。

そんなポール自身の転落データを元に代理店がこさえた夢転送装置“ノリオ”を使って、愛妻の夢の中へと侵入する主人公。「夢で会いましょう」とは、「もう二度と現実世界ではあなたと会いたくないわ」という意思表示とおそらく同義なのだろう。当時ロック仲間からさんざんっぱらコケにされたデヴィッド・バーンもどきの巨大肩パット入りスーツを颯爽と着こなしたケイジが、かつてハーレーに股がって悪党相手に正義の鞭をふるったゴーストライダーと同一人物だと気づくものはいないだろう。

ドリーム・シナリオ
監督 クリストファー・ボルグリ(2023年)
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