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全編に溢れるおしゃべりと長回し、ブレヒトを意識させる“第四の壁”演出、陰鬱なNYと陽気なLAとの二項対比...ウディ・アレンの映画スタイルを確立させたといわれる本ロマンチック・コメディは、日本でも大変人気があるのだとか。まるで平成天皇と美智子様の出会いのように、ある日テニスコートで出会い惹かれあったアルビー(ウディ・アレン)とアニー(ダイアン・キートン)の大人の恋の物語だ。
ユダヤ人差別に対する不平不満を友人にまくしたてるアルビーの映画冒頭のマシンガントークは、映画監督ウディ・アレン自身がこよなく愛するNYに対する憎まれ口だ。好きで好きでしょうがないのに本人を目の前にするとつい口をついて出てきてしまう悪口....強迫神経症に悩むアルビーだけに、ちょっとした相手の欠点も気になって気になって夜も眠れなくなってしまうのである。
「世界の中で一人でも飢えている人がいるとわかると、人生を楽しめない」と語るアルビーは、スタンダップ・コメディアンの舞台でギャグが滑ったらどうしようといつも怯えていて、歌謡ショーでディナー客の一人がけたたましい音をたてただけでショックを受けて大泣きするアニーとは、いわゆる似た者同士なのである。世の中上手くいっているカップルはすべからくそうだと思うのだが、“お互いの欠点”を共有し合っているのではないだろうか。
ゴキブリやクモが部屋に現れただけでSEXも途中放棄、生きている🦞を鍋にいれるだけで大騒ぎする2人は“(人間を含む)生き物”が大の苦手なのだ。自分の本当の気持ちをそこにいる登場人物ではなく、スクリーンの向こうの観客に向かって語りだすアルビーの態度によくそれが現れている。アニーの浮気が原因で別れた後、通りを歩いていたバカップルを呼び止め「私たち二人とも頭スッカラカンだから」という回答を得て、大いに納得するアルビーなのである。
出会った当初は、心にぽっかり空いた“HOLE”がピタリと重なり合っていたアルビーとアニーだったが、大物音楽プロデューサーに会うためLAに二人して出掛けたあたりから、お互いの気持ちがすれ違い始める。たとえ“すべての人が楽しむことができなくとも”なんも悩むことなく、コカインや葉っぱでラリッてノー天気に人生を楽しんでいる人々が暮らすLAに浮気したアニーを、どうしても許すことができなかったアルビーなのだ。
「死にまつわる本」ばかり読んでいるアルビーを、アニーは「あなたはまるでニューヨークみたいな人」と形容する。太陽、ミルク、赤い肉、大学...健康的なものに囲まれたLAに拒絶反応をおこすアルビーは、社交的なこの街の雰囲気が大大大嫌いなのである。やがてLAに飽きてNYに戻ってきたアニーにアルビーは迷わずプロポーズするのだが、あっさりふられてしまう。“サメ”のように前進しつづけることができない男とサケのように大切な“卵”を産みに帰ってきた女。かけがえのない思い出を共有する二人に、またいつか元の関係に戻れる日が訪れるのだろうか。
アニー・ホール
監督 ウディ・アレン(1977年)
オススメ度[
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