
パラドックスを説明する有名な例え話にこんなものがある。「ソクラテスは嘘をついている」とプラトンが言ったのを受けて、ソクラテスは「プラトンが言っていることは正しい」と返したという。
プラトンの言うことが真ならば、ソクラテスは嘘をついている。ということはプラトンの言っていることは正しくないことになり、プラトンの言っていることが真だという最初の命題と矛盾する。
ニッキー(ウィル・スミス)がジェス(マーゴット・ロビー)を詐欺師仲間に引き入れ、ヴェガスで開かれるスーパーボールVIP席で中国人富豪をギャフンと言わせる映画前半は、どこまで本当のことを言っているのか観客がとまどうほど意外性は抜群だ。
しかし、今までさんざんチュッ、チュッしていたジェスに、空港に向かうクルマの中で突然の別れを切り出したニッキーの真意はいまもって謎。ご都合主義てんこ盛りの映画後半はつっこみどころ満載で、前半とは異なる脚本家のシナリオを無理矢理くっつけたようなぎこちなさだ。
プラトンのパラドックスを越えて、一度は失ったジェスの信頼をニッキーが取り戻すようなストーリー展開にしたかったのだろうが、肝心のジェスが単なる盗み狙いのちんけな追っかけで、そこに肌の色が全くちがうオヤジ?が登場した時点でシナリオは完全に破綻してしまっている。
フィカーラとレクアのどちらがどっちを担当したのか知るよしもないが、映画『スティング』を彷彿とさせる前半のノリが良かった分、制作上なんかあったんじゃないのと勘ぐりたくなる映画後半のトーンダウンが残念な1本だ。
フォーカス
監督 グレン・フィカーラ、ジョン・レクア (2015年)
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