ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

アナザー・ラウンド

2023年03月09日 | ネタバレなし批評篇

デンマーク語原題は『DRUK(どんちゃん騒ぎ)』、英語原題は『ANOTHER ROUND(もう一杯)』で、本作の受け取り方が北欧と英語圏では若干異なっているようなのである。同じデンマーク人監督であるラース・フォン・トリアーと“ドグマ95”なる(映画制作のおける)純血の誓いを結んだ映画監督だけあって、テーマはいたって挑発的だ。なぜならハリウッドでは毛嫌いされている飲酒を肯定的にとらえようとした作品だからだ。

『失なわれた週末』『酒とバラの日々』『クレイジー・ハート』『フライト』『ガール・オン・ザ・トレイン』....日本人とは違って、アルコール分解酵素を遺伝的にほぼ100%備えているアングロ・サクソンはお酒大好き民族にも関わらず、酒に溺れる人を見るのが大嫌い。これらアル中映画に登場する主人公たちは、決まってアルコールで身を持ち崩し、ラスト破滅的な最後を迎えるのだ。

そこへいくと本作は、あくまでも論文作成のための実験と称して、「アルコールの血中濃度0.05%」に保つことによって人間生活にどんな変化が現れるのかを検証しようとした映画、のような体裁をしている。ヴィンターベア監督曰く、日常生活で「コントロールされることにウンザリしている」人たちが、我を忘れるほどに酒を飲み幸福を手に入れるお話しにしたかったそうなのだ。そこで邪魔になったのが昨今のポリコレ的風潮であり、主役のマッツ・ミケルセンの職業を高校教師にした理由もおそらくそこにあったのだろう。

ヴィンターベア監督の実娘アイダさんも、マッツが教える高校の生徒役で出演する予定があったのだが、本作の撮影開始直後なんと交通事故にあって急逝してしまったらしい。劇中、アルコール摂取で一時的な高揚感を味わったマーティン(マッツ・ミケルセン)だったが、夜勤シフトと称して別の男との密会を繰り返していた妻アイダの浮気癖は一向におさまらず、一気に意気消沈アル中廃人一歩手前まで道を踏み外していくのである。

アル中で有名だった元英国首相チャーチルや、アル中文豪ヘミングウェイの逸話を引っ張り出し、酔っぱらって女性官僚にちょっかいを出すエリツィンのニュース映像を悪意タップリに挿入してみせたヴィンターベア。ヒトラーは酒を一滴も飲まない動物好きとして知られていたらしいが、酒も適量ならば人を幸福に導く百薬の長としての側面を強調したかったのではあるまいか。だが、日本酒大好きな某国首相の無策ぶりをみる限り、こと政治に関しては飲酒が悪影響しか及ぼさない気がしないでもないのだが.....

アナザー・ラウンド
監督 トマス・ヴィンターベア(2020年)
オススメ度[]


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