
「(花に嵐のたとえもあるさ) さよならだけが人生だ」漢詩の一節を墓碑銘にしたのは、45歳という若さで急逝した映画監督川島雄三である。2025年には人口三人に一人が65歳以上の高齢者となる日本において、社会保障制度はいずれたち行かなくなり、年金受給もままならくなることだろう。しかも我が国の場合、少子というオマケまでついているわけで、いかにAIによって労働力不足を補ったとしても限度ってもんがあるのだ。この映画の主人公(倍賞千恵子)が78歳まで働かなければ家賃も払うことができない状況は、隣近所を見回してももはや普通に存在する日常茶飯事になっている。その労働力不足を補うために日本が遅ればせながらはじめた移民の皆さんの受け入れも、同じような状況の諸外国に比べると賃金の見劣りはいかんともしがたく、輸入食料品同様に外国に買い負けることは明白なのである。(某ノーテンキ首相のように)では賃金をあげればと簡単にいうけれど、現在世界的にインフレ圧力が高まっている状況でそれをやれば、物価高にはさらに拍車がかかり生活困窮者が巷に溢れかえり、日本が現在世界に唯一誇れる“平和”さえ失うことになるだろう。つまり根本的解決策は、(倫理的な問題は別として)本作の早川千絵監督(46)が予想した通り、老人の人口比率を恣意的に減らすしかないのである。わざわざオランダやスイスへ出掛けていかなくとも近い将来、日本に限らずとも同様の問題を抱える国々で、PLAN75のような自殺ほう助が合法的に認めらるようになるのは必至。延命のための医療はもはや意味をなさなくなり、死ねるチャンスがあればそこを逃さない方が後々楽になる、そんな時代がもうそこまでやってきているのである。この映画には、高齢者にはつきものの認知症やうつ病などの精神疾患問題が意図的に省かれはいるが、今後少子高齢化問題がより鮮明化してくれば、介護者をかねる健常者はみなサラリーの良い海外へと出稼ぎにでるようになり、日本には(働くことのできない)高齢者ならびに障がい者しか残らない、目も当てられない悲惨な状況に陥ることだろう。かつて人類はそんな行き詰まった状況下ではしばしば“戦争”をおこし人口を(無意識に)減らしてきたのだけれど、(人権問題とコスパが重要視される)昨今の戦争をみる限りその経済効果も限定的。倍賞千恵子演じる老女の相談担当になった若い女の子のように、何処かにその怒りをぶちまけたい気持ちもわからないではないのだが、あと数十年もすれば君たち若者もすっかり年をとるわけで、やがて当事者となることを決してわすれてはいけない。ゆえに長生きは最大の無間地獄なのである。
PLAN75
監督 早川千絵(2021年)
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