ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

最後の決闘裁判

2023年02月19日 | ネタバレなし批評篇

これだけ露骨な演出をすれば、本作が#metoo裁判の中世版であることにすんなり気づかれたことだろう。もっといえば、セクハラで一時ハリウッドから干されていたベン・アフレックが、領主ピエール役兼脚本担当にもクレジットされていることに是非とも注目したい1本なのである。黒澤明の『羅生門』でお馴染みの同一事実を3者目線で描く演出で、セクハラした当人の言い分をこっそりしのばせた、エスプリが感じられるストーリーなのだ。

そのベン・アフレック演じる領主ピエールの顔を見てまずはビックリ。あのバットマンを演じた時でさえ、酒の飲み過ぎでむくんでいた顔の頬か😱、ピエール本人の(SEXシーンはあるものの)アクションシーンは特段用意されてなかったにもかかわらず、である。おそらく、本人の“みそぎ”の意をこめた減量だったのではないだろうか。浮いたうわさをほとんど聞かないアダム・ドライバーにあえてアフレックのオルタナティブ役をやらせるところなど、リドリー・スコットならではのキャスティングだ。

演出上、件のレイプ事件に至るまでの経緯をチャプターだてで都合3回繰り返し、(上手く編集されてはいたが)2時間半越えの長尺になってしまったため、冗長さは否めない。しかし、中世世界を再現した美術・衣装・照明は他に類を見ない安定感があり、ジェソン・ボーンvsカイロ・レンの決闘シーンなどは、直近に見た『ノースマン』に比べても、迫力とスピード感は本作の方が数倍勝っていた。ロバート・エガースなどのこの路線を目指す若手映画監督も、見習う点が多々あったのではないだろうか。

名誉と誇りを何よりも重んじる騎士カルーシュ(マット・デイモン)、腕力より知性に訴えて権力者と女にすり寄る従騎士ル・グリ(アダム・ドライバー)、そして力なき時代のフェミニストマルグリット(ジョディ・カマー)。ル・グリにレイプされたか否かを男同士の“決闘”によって決めるという、女性を無能力者として扱っていた時代の何とも野蛮なお話なのである。まるでモノを扱うような夫カルーシュやル・グリの言動に、マルグリットならずとも疑問を感じさせるスコットの演出は、今回実に冴えわたっていた。

やがて、(多分カルーシュの)子供を身籠り無事男の子を出産したマルグリット。金と名誉のため戦いに明け暮れるカルーシュに向かってマルグリットはこういい放つのである。「子供を育てるには(誇りだけでなく)愛も必要よ」しかしその愛を注いで大切に育てた我が子も、結局女を見下す下衆やろうとなってしまうのではないだろうか。マルグリットは“愛”そのものに疑問をいだくのである。無償の愛を男に注ぎ続けた女である母親に原因があるのではないか、と。決闘に破れフルチン姿の死体を野ざらしにされたル・グリも夫に殺される直前確かこう主張していたのだ。「断じてレイプではない、これは“愛”なのだ」と。

最後の決闘裁判
監督 リドリー・スコット(2021年)
オススメ度[]


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« PLAN75 | トップ | 別れる決心 »
最新の画像もっと見る