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米ソ冷戦下、チェス世界チャンピオンに挑む若き天才ボビー・フィッシャーの伝記映画である。
このボビー・フィッシャー、人格は完全に破綻していて、無礼きわまりなく、しかも精神に異常をきたしている相当な変人だったらしい。
宿泊ホテルがKGBに盗聴されていると疑っては電話を分解し、ゲームに集中できないと主催者側にキレては観客の咳やカメラを回す音にまでイチャモンをつける。
試合のフィーを上げなければ飛行機に乗らないと突然の失踪、米国の威信をかけた一戦を前にかかってきたニクソン大統領の電話にもでない反社男を、トビー・マグワイヤが怪演している。
“ブルックリンのダヴィンチ”と称賛されながらも、結局はアメリカ社会に馴染めず、放浪の果てに投獄され、アイスランドのレイキャビクで死亡したという。
「奴は試合に負けることを怖れているわけではない。勝った後潰されることを怖れている」第2戦をすっぽかしたボビーの本心を見抜いたのが、ソ連の世界チャンピオン=スパスキー(リーヴ・シュレイバ―)という設定が面白い。
共産主義を毛嫌いしユダヤ陰謀説を狂信するボビー・フィッシャーの姿はまさに、中国を失い、ベトナムまで失いそうになっていた当時のアメリカの焦りそのもの。
ウォーターゲートを揶揄したと思われる一連の盗聴騒動も、米ソ代理戦争の捨てゴマにはけっしてならないぞという“狂人のふりをした天才”による神の一手だったのではないか。
ノーベル平和賞にノミネートされながらも連絡がとれず授与を断念されたボブ・ディランのように、体制に組み込まれることを最期まで嫌った孤高の天才ボビー・フィッシャー。
「正しい手は一つしかない」ことを知っていたボビーがもっとも怖れたことは、天から与えられたチェスの才能=真理を探求する喜びを失うことだったのかもしれない。
完全なるチェックメイト
監督 エドワード・ズヴィック(2014年)
[オススメ度
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