FBIでの実績が認められ、メキシコ国境付近の麻薬カルテル撲滅作戦に駆り出されたケイト(エミリー・ブラント)。「俺たちの後ろについてただ見ていろ」という指令にとまどうケイトは、麻薬捜査官のマット(ジョシュ・ブローリン)やその同僚アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)らの法律無視の行動に疑問をいだくのだが・・・
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』以降なぜか屈強な女戦士を演じることが多くなったエミリー・ブラントだが、はっきり申し上げてこの美人女優さんアクションにはむいていない。
本作のような腰が引けたクライム・スリラーにおいては許されるのかもしれないが、(演出意図があったにせよ)FBI現役捜査官にしては身ぎれいすぎるブラントの役作りが気になるところ。
小さすぎてよく見えなかったブラジャーはともかく、全く日焼けのしていない美しい素肌にメイクばっちりのブラント。しかも、あんなに上品なタバコの吸い方をする女隊員がいるはずもなく、アクションだけならリアル・デンジャラス・ビューティーことガル・ガドットあたりにやらせた方がまだましだったのかもしれない。
ゴルゴ13なみの非情さを見せつけたベニチオ・デル・トロが、むしろ本作の主人公ではなかったのかと思わせる抜群の存在感があっただけに、エミリー・ブラントの影の薄さが逆に目立ってしまうのだ。
グーグル・アースのような衛星映像や国境の外からドンパチをのぞき見る双眼鏡、国境の抜け道における暗視スコープなどによって、あくまでも“対岸の火事”としてギャング同志の抗争を傍観するアメリカ人たち。
サンダル履きで半ば観光気分のマットとは違って、動機こそ不純きわまりないが、この作戦に当事者意識を持って唯一臨んだのはアレハンドロだけだったのではないか。途中暗視スコープをかなぐり捨て当事者になろうとするケイトではあったが、所詮はきれいごと、かえって邪魔者扱いされてしまうのだ。
マシンガンの音に慣れてしまうほど身内が日々殺されていく状況を、世界一危険な街といわれるメキシコファレスの市長が“(過去にあった)事実”と認めたらしいが、スクリーンを通して本作を眺めた我々観客もまた“傍観者”の一人であることをけっして忘れてはならない。
ボーダーライン
監督 ドゥニ・ヴィルヴーヌ(2015年)
[オススメ度 ]