新人監督の商業映画デビュー作とはとても思えない完成度の高いオリジナル脚本。
本作で主人公の娘役を演じた杉咲花ちゃんをあて書きしたというシナリオは、まるで監督の実体験に基づいているのではないかと思わせるくらい、母親に捨てられた女の子の気持ちが超リアルに描かれている。
ブラジャー&パンティや蟹&しゃぶしゃぶ、手話に牛乳?などの伏線を駆使しながら、学校でいじめを受けているひっこみ思案の安澄(杉咲花ちゃん)を一人立ちさせるべく奮闘する熱きお母ちゃん双葉(宮沢りえ)の姿は感涙ものだ。
実は私の親類筋も風呂屋を経営していて、癌で亡くなる死の直前、痛みにたえかねた叔父さんが息子に風呂を炊かせて客のいない湯船につかったそうなのだ。
従兄弟が釜に薪をくべながらその煙に目がしみて涙が止まらなかったという映画みたいなエピソードまで残っているのだが、板の間と呼ばれる脱衣場でとり行われた葬式を現在でも覚えている。
しかし風呂屋が舞台のわりには、宮沢りえの入浴シーンがゼロというのはいかがなものか。死体遺棄罪に問われてもいたし方ない黒澤明の『天国と地獄』を模した強引なラストシーンさえなければ、舞台が風呂屋でなくても別によかったのではと思える後半の展開はいま一つ。
下風呂と呼ばれる薪で沸かした湯を一時ためておいてやわらかくするスペースなどは、子供にとってワンダーランドだった記憶が私自身の思い出としてあるだけに、なおさらそう感じてしまうのかもしれない。
湯を沸かすほど熱い愛
監督 中野量太(2016年)
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