角川つばさ文庫から出た、藤浪智之・作、佐々木亮・絵のゲームブック「バニラのお菓子配達便! ~スイーツデリバリー~」をプレイしました。
きみは、天馬ばにら。小学五年生。『パティスリー・エイル』の「お菓子配達サービス」担当だ。今日も町のお客さまに、ケーキやマカロン、お届けするよ! …と思ったら。え? 人気アイドルデュオが解散のピンチ!? 幽霊やしきからはなぞの注文メール? …さあ、お菓子の妖精デコといっしょに、解決してあまいしあわせ、届けよう! 読者のきみが選ぶと、ストーリーが変わる「きみが主人公」の物語!!
藤浪智之「バニラのお菓子配達便!」(角川つばさ文庫)裏表紙より。
優秀なパティシエだった両親を飛行機事故によって失った三姉妹。しかし残された三人は、長女の和美(なごみ)が経営と接客、次女の匠美がパティシエール、そして三女のばにらが配達と、それぞれ協力して、両親から受け継いだスイーツショップ『パティスリー・エイル』を切り盛りしていました。
そんな『パティスリー・エイル』に、奇妙なお客からの注文がやってきます。お客さんはそれぞれ、微妙な問題を抱えているようですが……。店を守護している妖精・デコと共に、ばにらはお客さんのために奔走するのでありました。
本書では、ランダマイザとして、トランプを使用します。最近の子供の生活環境はよく知りませんけど、サイコロよりはトランプの方が家にある確率は高そうなので、よろしいのではないでしょうか。トランプが無くても、ページの隅にトランプが印刷されていますので、適当にページをめくることで代用することもできます。
メインルールは、ほぼ2種類だけです。ひとつは、山札からカードを一枚引いてそのスートによって判定を行う、運命判定というもの。数字は関係なく、全てスートのみで判定されます。
もうひとつはフォーチュン・カード。ゲームを進めていくとフォーチュン・カードを得る機会があり、運命判定をする際に、山札からひく代わりに、所持しているフォーチュン・カードを使用することができます。場面によっては運命判定だけではなく、フラグのように使ったり、一種のヒットポイントのように使ったりしていて、なかなか上手いなぁと思いました。
いわゆるキャラクターシートである配達記録用紙には、フォーチュン・カード、持っているアイテム、メモの3項目があります。実際にトランプを使用しているのなら、実際のカードがフォーチュン・カードの記録になりますし、アイテムやメモも、憶えていられる程度しかありませんので、記録用紙は使わなくてもプレイすることはできそうです。
本書には「天使と悪魔とチョコレート」、「いばらの城のアリス」、「スイーツ王女、登場!」という、3つのエピソードが収録されています。それぞれパラグラフ数は50、80、64と、それほど多くはありませんし、子供向けということで、パラグラフの構造もそれほど複雑ではありません。多少の運の要素はありますが、まあ普通にクリアするのはそれほど難しくはないでしょう。難しそうなところには、ヒントページも用意されていたりしますしね。
ただ、マルチエンディングになっていたり、エピソードごとに少しずつ、ゲームブックとしてのテイストが異なっていたり、単純な選択による分岐だけではなく絵解きパズルやパラグラフジャンプなどもあったりして、ゲームブックの面白さのエッセンスは充分に詰め込まれていると思います。低難易度でありながら、多様な魅力を備えていて、ゲームブックの入門としてはなかなか良いのではないでしょうか。
角川つばさ文庫は、小中学生向けに読書の楽しさを知ってもらうきっかけを作るというコンセプトで、古典から新作まで幅広いジャンルの作品がラインナップされています。そんな中で、本書のように、子供が手に取りやすい、入門編のようなゲームブックが出版されるのは喜ばしいことですね。
あとがきによれば、本書は<つばさゲームブック>の第1弾で、他の作家による別の本の話も進んでいるようです。過去作品の復刊や、本格的なゲームブックの出版ももっと為されて欲しいですけど、それらとは別に、けして子供だましではない、子供向けゲームブックの新しい流れを作ってくれると嬉しいですね。
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