つらつら日暮らし

焼酎ブームに叛旗? 飲酒の注意 其の四(養生せいや~!!19)

貝原益軒は、江戸時代初期に世間で広まっていたさまざまな種類について、それぞれコメントをしているのですが、或るお酒だけは、本人苦手だったのか?それとも、本当に問題があったのか?は存じませんが、良いことを書いていません。早速見ていきましょう。

 焼酎から醸造した薬酒は、用いてはならない。
    岩波文庫『養生訓・和俗童子訓』77頁、拙僧ヘタレ訳


「醸造」の部分の原文は「かもしたる」とあるので、「醸す」、つまり「醸造」というわけですが、本来焼酎自体が醸造して作られたものであるはずで、そこから更に「醸す」というのは、理解が容易ではないのですが、造る方法があったのでしょう。今でしたら、焼酎にさまざまな生薬や強壮剤などを入れて、そしてしばらく漬けておくような方法があろうと思います。なお、益軒は薬酒を造るなら「性平和なる」酒が良かったみたいで、これはつまり、アルコール度数の低い物を意味していたか、もしくは味や香りがおとなしめのお酒を意味していたのだろうと思います。一応、岩波文庫本の原文を見て、合わせて講談社学術文庫から出ている伊藤友信氏の訳も参照しながら訳文造っていますが、伊藤氏のはほとんど直訳なので、この辺のニュアンスは伝わってこないですね。ただ、とりあえず益軒が焼酎を問題視していたことだけは伝わったかと存じます。

合わせて、その理由になりそうな一文も紹介しておきます。

 焼酎には大毒があるので、多く飲んではならない。火を点けてみて、燃えやすいのを見て、多くの熱を持っていることを知るべきである。夏場は、籠もった陰気が体内にあって、また表を開いて、酒の毒が肌に早く漏れ出やすいので、少し飲んでも害はない。他の月は飲んではならない。
 焼酎で造られた薬酒も多くを飲んではならない。毒に当てられてしまう。
 薩摩の泡盛、肥前の火の酒は、なお熱が甚だしい。外国から来た酒も、その素性が良く分からないのだから、飲んではならない、疑わしいものである。
 焼酎を飲む時も、飲んだ後にも、熱い物を食べてはならない。辛い物や焼き味噌なども食べてはならない。熱湯も飲んではならない。大いに寒い時も、焼酎を温めて飲んではならない、大いに害となる。
 京都の南蛮酒というのも、焼酎にて造ってある。焼酎に対する誡めと同じ誡めがある。
 焼酎の毒に当たった時には、緑豆粉、砂糖、葛粉、塩、紫雪(しっせつ、漢方薬の一種)などを、みな冷水にて飲むべきであり、温いお湯などは忌むのである。
    岩波文庫『養生訓・和俗童子訓』94頁、拙僧ヘタレ訳


・・・なにやら誤解を与える文章なのですが、原文に忠実に訳すとなると、こうならざるを得ません。いわゆる「毒」というのは、その毒素ということではなくて、「目の毒」とかいう言葉にあるように、身体に悪い、という意味合い以上のものではないと思います。もっとも、それでも焼酎の醸造元からは抗議のメール・コメント等が来そうな記事ではあります。ただ、慎重に見ていただければ分かりますが、「飲んではならない」というのではなくて、「“多く”飲んではならない」とされているので、一応「毒」というのも、口には出来ないほどの猛毒ではないのです。

さて、益軒が焼酎に見ている問題点、一言でいえば「熱」ということになります。「熱」というのは、何だろう?偶然なんでしょうけど「フロギストン」みたいな感じなんでしょうかね?「火がつきやすい物質」に具わる実体的な要素とでもいうべきでしょうか。益軒は、焼酎には火が点きやすいから、「熱」をたくさん持っている、よって、その「熱」によって身体の調子が悪くなるので注意せよ、とまぁ、こういいたいんだろうと思います。現代の我々であれば、「火が点きやすい」原因は、高濃度のアルコールにあることは知っているわけですけれども、具体的にアルコールの濃度を測る技術に気付いたわけではないのでしょうし(ただ、泡盛の名前の語源になったという、蒸留時の「泡」の量で、度数が測れたという話もあるようです)、とりあえず「酒」に分類されるけど、飲むと大変なことになるよ、という程度の知識だった可能性がございます。

具体的な銘柄としていわれているのは、「泡盛」と「火の酒」。ともに、現代でも飲むことができます。そして、両方ともに、中々「難しいお酒」でもございます。結構、風味に慣れるまで一苦労、という感じではないでしょうか。まぁ、泡盛も「古酒」になれば、独特な香りやコクが出て来るので、飲みやすいですけど・・・だいたい、益軒は福岡の人なのだから、地元のお酒といえば、焼酎だったんではないのか?などと思うんですけど、嫌いだったのでしょうかね。

あと、気になったのは「南蛮酒」です。これはタイあたりから伝わってきた外来酒のことを指す場合もあるようですが、ここで益軒が指摘しているのは、京都周辺で、焼酎を元に造られた特定の銘柄の酒だったようです。ブレンド酒とか、カクテルのような物だったのでしょうか?ざっくりとネットで調べた感じでは、不明・・・ただ、山崎光夫氏という方が、【酒の話あれこれ・その2(東洋経済)】という一文を書いておられるので、リンクしておきます。

しかし、今でこそ、焼酎もブームとなり、それなりに飲む時の功夫もされるようになりましたが、益軒、その様子を見てどう思われるのでしょうかね。やっぱり、ダメ出しでしょうか???拙僧は、或る御老僧から、「天神君、焼酎はロックだよ」と、音楽の話か酒の話か良く分からない状況で、「面授」されたことがあるのですが、その後、「正師」に反して「ホッピー」に堕落していたりします。嗚呼、慚惶慚惶

※この連載記事は、「かつて養生に関わる説でいわれていたこと」を、文献的に紹介しているのみでありますので、実際の医学的効能などを保証する目的で書いてはおりません。その辺は予めご理解の上、ご覧下さいますようお願い申し上げます。

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コメント一覧

tenjin95
コメントありがとうございます。
> うさじい さん

> 老師の仰る通り、泡盛はロックが一番ですね。夏場、古酒を先ずはストレートで少し楽しみ、そのあとロックでじっくりと味わいます。

なるほど、泡盛で、しかも「古酒」というのは、中々良い感じですね。

> 暑気払いにはこれが一番ですが、寝るころに体が熱くて弱ります。ならば飲まずに寝れば良いのですけれど、この至福の時間を手放すには少々惜しい気がします。

拙僧の場合、睡眠導入に酒はほとんど寄与していないので、正直飲まなくても良い・・・ということで、晩酌は止めています。今は、お付き合いの時のみになっていますね。あ、明後日、風月和尚さまの歓送会がありますので、その時飲みます。

> 年をとるに従って、このような充実したした時間の楽しみ方にも年季が入ってきて、より一層深い充実感を味わえるようになりました。

本当に、年によって、色々な趣向も変わってくるのでしょうね。それが分かってさえいれば、色々な変化に寛容になれそうです。
うさじい
老師の仰る通り、泡盛はロックが一番ですね。
夏場、古酒を先ずはストレートで少し楽しみ、そのあとロックでじっくりと味わいます。

暑気払いにはこれが一番ですが、寝るころに体が熱くて弱ります。ならば飲まずに寝れば良いのですけれど、この至福の時間を手放すには少々惜しい気がします。

年をとるに従って、このような充実したした時間の楽しみ方にも年季が入ってきて、より一層深い充実感を味わえるようになりました。
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