I~これが私~

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『死神』9.死神の説明<4>

2011-10-30 17:04:48 | 小説『死神』
死神

9.死神の説明

<4>

何とか二段階目を乗り越え、親父が眠そうにため息をついたのを見た俺はほっと息をついた。
「…迅。」
「何だ?」
俺の名を呼ぶ親父の声は、最近では信じられないほど優しかった。
まだお袋が生きていた頃と同じような声。
最終段階まで来たのは、これが初めて。
途中で逃げたこともあった。
今までの苦労なんて、こうやって名を呼ばれるだけですっと消える。
「俺はずっと、希美子(きみこ)のことを考えていた。」
「…。」
希美子というのは、お袋の名だ。
「希美子を亡くして、俺はすべての力を失った。でもお前は―――」
「!」
話が急に俺に来て、思わず肩がはねる。
「一人だけ、泣くのを我慢して。俺たちを支えてくれた。」
支えた、なんて。
俺はただ、
「やせ我慢、だったんだろう?」
親父は苦笑していた。
そう、あれはただのやせ我慢。
「でも俺はそれを見て、お前を守りたい…。そう思ったのになぁ。」
オマエヲマモリタイ。
親父は確かにそう言った。
「人を守るのって、大変なんだな。」
「あ、当たり前じゃん。」
「ははっ。希美子とそっくりだ、お前は。―――泣くなよ。」
親父が手を伸ばす。
いつの間にか俺は泣いていた。
「ごめんな、迅。俺は何もできなかった。お前を守れなかった。最後まで傷つけることしかできなかった。信じられないかもしれないが…」
親父がそこで言葉を切り、俺の手を握る。

「俺は、お前が好きだ。」

嬉しかった。
俺は嫌われていたんじゃない。
ごめんな、と親父の口から繰り返される言葉に、俺は泣きながら頷いた。
「信じる…信じるよ、親父…!」
子供みたいに、俺も繰り返した。
俺と親父の気持ちは一緒で。
それがすごく、嬉しかったんだ。
「迅。俺は、もうお前を傷つけることしかできない。最後まで迷惑をかけると思うが、できればでいい。俺のことを、助けてくれないか。」
「親父…?」
「あぁ、すまん。今のは聞かなかったことにしといてくれ。」
その親父の言葉は、お袋がまだ生きていた頃の、叱られるのを恐れている態度と同じだった。
「最後は、お前と―――――」
親父の言葉がとぎれる。
ぼやける視界をこらすと、親父は眠ってしまっていた。
「親父…。俺は、親父のことを助ける方法、知ってんだ。」
寝ている親父に話しかける。
「知ってるけど、つらいなぁ…!」
たった一つの方法。
一つしかなくて、それはとてもつらい。
でも、助けるためには、それしか方法がないのだ。

「親父…俺、やるよ。死神に、なる。」


written by ふーちん


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