タイトル | 順位 | 感想 |
午後8時の訪問者 | 2 | 主人公の「普通さ」と「真っ当さ」に心打たれた。恋人や家族の影の薄さも、僕的には好印象。自分だったらどうするか? きっと同じようには振る舞えない。 |
2017年はベスト1が別格なので、この作品が実質的に「2017年のベスト」と言っていいです。
とにかく、主人公のジェニー(アデル・エネルという女優さん)が大好きです。
劇中では特に家族や恋人の存在は描かれず、かといって「孤独な人」という印象もなく、ごく普通に「自分の力で生きている人」という描かれ方をしていたのだ素晴らしかった。
ハリウッドでありがちな(ちょっと嫌味っぽいけど)「家族や恋人の力を借りて」困難に立ち向かう、という展開ではありません。
もちろん、彼女に手助けをしてくれる人もいるけれど、基本的にジェニーは自分で考え、自分で決断し、自分で行動する。
余談ですが、こんなにもスマートフォンを「普通に使いこなす」キャラは、他の映画ではあまり見たことないです。
タイトルどおりに、午後8時(クリニックの診察時間外)にクリニックを訪れた一人の少女がキーパーソンになります。
翌日、その少女は死体となって発見される。名前も身元も不明。
あのとき、自分が応対していたら、あるいは彼女は生きていたかもしれない…
その後悔がジェニーを突き動かすのです。
とはいえ、彼女は普通の医師。クリニックも、別の医師の代休で手伝っていただけ。
それでもなお、ジェニーは少女の身元を突き止めるために、積極的に動きます。
人が死んでいるとはいえ、物語全体は少しずつ、静かに進んでいきます。
その静かさ、力強さが、僕の胸にズンと響きました。どうしようもなく惹かれてしまった。
あの時、ああしていれば…
そんな後悔は誰しも抱えているのではないでしょうか。
ジェニーも、またそういう市井の人々のひとりなのです。
ラストシーンもこの映画らしく、実に淡々と、しかし希望を感じさせるものになっています。
僕らの生活はずっと続いていく。
そんな中で起きた、大きな出来事。
ほとんどの人は「仕方のないこと」と割り切ってしまうだろうけれど、ジェニーにはできなかった。
その強い決意は、しかし誰かに誇るためのものではなく、もっともっとプライベートなこと、「私が決めたこと」。
声高に何かを叫ぶのではなく、静かに、しかし確実に前に進んでいく。
とてもとても大好きな映画です。