原作を読んだ者として、期待大で劇場へ向かう。
どこぞで「福井作品の映画版の中で、いい出来」という話を聞いた気がしたので。
その期待、オープニングから最初の10分くらいまでで、裏切られた。
「何をそんなに慌てるのだ?」と思うくらい、全速力の進行。
イージス艦があっという間に乗っ取られてやんの。
確かにね、分厚い文庫で上下巻に分かれるくらいの大作ですよ。
それを2時間程度にまとめる苦労は、相当のものだったでしょうよ。
でも、これはいくらなんでもひどい。
主役の専任伍長・仙石を演ずるのは、真田広之。
好きな役者さんだし、悪くないかなと見るまでは思ってた。
でも、何か違う。
無理矢理マッチョな言葉遣いをさせられている感じ。
本当の自衛艦乗りはそうなのかもしれないけれど、
真田さんの口から発せられると、違和感を覚える。
宮津艦長、じゃなくて副艦長だったかな。
演じるは寺尾聰。
ここ最近の活躍が著しい。
今回もハマり役…と思っていたのに、これもまたがっかり。
とにかく影が薄い。
「いそかぜ」乗っ取りの首謀者であるにもかかわらず、
迷いや揺ればかりが強調されていて、物足りない。
「こんな男に部下が追随するわけないだろう」と思ってしまう。
「異国」のテロリスト、ホ・ヨンファ役は中井貴一。
これはよかった!
正体が明かされるまでの「若干ぎこちない」日本語が最高。
冷酷かつ手ごわい敵役として、強烈な印象を残した。
ただし、なぜ彼がテロリズムに執念を燃やすのか、
その背後関係が描かれていないので、
現実感は薄れていたように思った。
ダイスのエージェント・如月 行を演じたのは…
いま公式サイトで調べました。
勝地 涼(かつじ りょう)という役者さん。
新人俳優だそうなので、演技で唸らされたところはひとつもなし。
沈着冷静というよりも、単に虚勢張っているようにしか見えない。
アクションシーンでもキレが感じられず。
出番が多いにもかかわらず、宮津艦長同様、存在感が乏しい。
ダイスのボス・渥美役は、佐藤浩市。
さすがの存在感。
いかにも頭が切れそうだし、ふてぶてしさもあって、
「こいつはやるな」と思わされた。
ただ、政治家やら官僚やらを相手に回して、
丁々発止のやりとりをする、というシーンがなかったので、
「もっと頑張れよ、ダイス!」と思ってしまった。
如月が泣くよ。
そうそう、もう一人。
総理大臣役の原田芳雄。
素晴らしい演技でした。
「こんな大臣、いそうだよな」と思わされた。
典型でも陳腐でもない、血の通った人間像の構築。
ベテランの技倆に乾杯。
さて。
演技のあれこれにけちをつけましたが、
とってつけたかのようなフォロー。
役者は(それほど)悪くない。
悪いのは、台本。
ほとんどの役者は熱演だったし、
求められたであろう水準はクリアしていたんだと思う。
でも、その結果できたものがつまらない。
僕にはつまらなかった、とすかさず訂正。
とにかく、展開のすべてが性急すぎるように見えた。
複雑ゆえに強く結びついている数々の人間関係は、
その3分の1も描かれていなかった。
たとえば仙石が命を賭して仙石を助ける理由も、
説明できても共感できない。
ホ・ヨンファと女性工作員との関係は?
一緒に見た友達は「親子」だと思っていた。
原作では「兄妹」。
写真を焼くシーンでそれとなく示唆されてはいたけれど、
女性工作員はもっと年齢のいった女優を使うべきだったのでは?
事件の発端・動機・過程・解決。
どれをとっても中途半端にしか描かれていないから、
どこにも感動できず、誰にも共感できなかった。
原作にはあったGUSOH(グソー)の秘密が、映画版では除かれていた。
原作では明記されていたホ・ヨンファの国籍(北朝鮮)が、
映画では一切触れられていなかった。
政治的背景をできるだけ曖昧にすることで、
自衛隊の協力やメジャー資本での公開が可能になったのだと思う。
そのことで、結局は原作が持っていた魅力が、
大幅に削がれてしまったんだろう。
明確な敵のいないアクション映画は、たいていつまらない。
『亡国のイージス』でのアクション描写は、
予想以上に少なく、かつ迫力に乏しかった。
艦船シーンの呆気なさに悲しくなったほど。
そうか、
『亡国のイージス』は映像化に向かなかったのか。
見終わった後に痛感させられた。
繰り返すけれども、男優陣の演技はよかった。
でも、あの脚本では魅力も半減。
イージス艦の活躍も見られず、迫力あるアクションもなく、
濃密な人間描写もなく、あるのは「自衛隊全面協力」という看板だけ。
大好きな原作だっただけに、本当にがっかりした。
もう一度、小説版を読み返すかなぁ。
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