先日の晋山結制では、もちろん法戦式が行われました。法戦式とは、修行期間中の修行僧のリーダー(首座)が、住職に代わって問答を受け、修行の一つの段階をクリアする関門。そのような僧侶の養成も住職としての大きな仕事なのです。
ところで、この法戦式では古来より伝統的な古典の問答が使用され、受け継がれてきました。近年では、多少分かりやすい日本の法語が使用されたりはしてきましたが、それでも文語調のいわゆる「禅問答」でした。
ところが、今回使用された法問は、現代文で画期的なものでした。聞いていて判りやすいだけに、禅の問答の緊迫感がより強く伝わったように感じました。
以下、書記和尚様にお願いして、一部を拝借してまいりましたのでご紹介します。
1.修行の覚悟について
問 第一座(首座和尚)は、どんな覚悟で修行されてきましたか?
答 仏祖の生き方を見習おうと修行してきた。
問 生き方をまねしてどうしますか?
答 寺に入れば、それを檀家さんに伝えたいと思う。
問 そうして、人を導いて何か益がありますか?
答 みだりに結果ばかりを追ってはいけない。あなたも、人に問う前に、仏祖の行い通り修行することが大切なり。
問 珍重
答 万歳
2.三心について
問 道元禅師は、喜心・老心・大心を持てとお示しですが、如何なる心ですか?乞う尊意。
答 喜心とは、なさねばならない仕事なら、喜びを持って前向きにせよという事である。
問 確かに嫌々やったのでは、良い結果は出ません。では、老心とは老婆親切心の事でしょうか。
答 その通り。更に言えば、母が子をいとおしむように愛をこめて接する事である。
問 赤ちゃん虐待がおこる日本の国は病んでいますね。
答 現代の日本人は、とてもギスギスしていて、すぐにカッとなって犯罪を犯してしまう。大心とは大海のような広い心のことで、お互いに許しあわなければ、この世は平和にはならない。
問 珍重
答 万歳
3.不殺生の意味
問 仏は不殺生を説く、如何なるか不殺生の意義?
答 森羅万象、生きとし生けるもの皆生命あり、万物の生命を断ずる事なかれ。
問 我等日々三度の食事をなす。換菜を食するは殺生戒を犯すに非ずや?
答 学人、何のために換菜を食するや?
問 五体を養い、生命を維持せんがためなり。
答 いいや、学人、三度の食事に換菜を食するは五体を養わんがために非ず、悦楽を求めんがために非ず、仏道を成ぜんがためなり。
問 尊意、尊意
答 乞処は見よ、換菜悉く成仏するなり。
問 正得、不殺生の意義、更に説き給え。
答 時間を空費するは時間の殺生、金銭を浪費するは金銭の殺生、社会の安寧を破るは社会の殺生、徳なくして政治に関与するは政治の殺生、親にそむくは親を殺すなり、子どものわがままを許すは子どもを殺すなり、仏の戒法を破るは仏を殺すなり。新羅万象、悉く生命あり。学人、殺生戒を犯すことなかれ。
問 珍重
答 万歳
と、いうような問答でした。もともとこの法戦式の問答は、今日では、あらかじめ出来ている問答集を空暗記して、戦わせるもので、今回ももちろん、その場で考えたものではなくて、つくっておいたシナリオによるものです。が、全文を暗記しているだけに、迫力があり、説得力があります。特に最後の、たたみかけるように殺生についての意味を語るところは感動ものでした。
このような形もアリかなぁと思いました。誰が作ったものなのかは知りませんが、新しいチャレンジですね。
暗記して語った首座さん(確か高校生)、どこまで理解されているかは知りませんが、いつか自分のものになることでしょうね。