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育てて活かして勝つ

駒澤大学陸上部監督、大八木弘明氏の本です。本年2月10日に「コスミック出版」から出版されました。

内容は、
 第1章 監督という仕事
 第2章 陸上部再生
 第3章 箱根初優勝
 第4章 常勝軍団の秘密
 第5章 大八木流采配と育成術
 第6章 指導者としての夢
から成っていて、駒大の駅伝チームを常勝軍団に導いた大八木氏の自叙伝。現在に至るまでの歴史と舞台裏がデータも含めて細かく記載されていて、大八木氏のポリシーや育成方針が網羅されています。巻末には、第三者から見た大八木イズムについて、あるスポーツライターによる解説文が掲載されています。
 駅伝ファンは必見の書です。

 熱烈なファンの一員でもあります私の感想は、ほぼ想像されていたことや報道・結果などから伝わっていたことが、きちんと裏付けされたなぁ・・・というところです。特にエース級と位置づけた歴代の5人をはじめ各年度の特色有る選手の具体名をあげて、個々の性格や心理状態までを分析したチームづくりを明かしてくれているところは興味深いところです。正直で率直な大八木氏の人柄が感じられます。本気で愛情を持って育成に、そして、勝負に懸ける熱い情熱が、皆から指示されている所以なのだと思いました。

 また、興味深かったのは、かつての箱根で当時のエースの藤田敦史を2区でなく4区に使った理由。また、1区確実と思われていた内田直将を外した訳・・・等、ずっと疑問だったことが良く判って嬉しかったです。
 大八木氏の着眼点は、単に勝負にこだわるだけでなく、将来の人生をも見据えての育成にあること。一見、箱根駅伝への勝負へのこだわりが強いように見えますが、たとえば、卒業後の藤田の成長を期しての4区起用が、後にマラソンの日本新を生んだのかも知れないとも言われているように、先をグローバルに見据えているところがすばらしいと思いました。
 しかし、もしあそこで2区に回していれば・・・、藤田時代に優勝があったかも知れないと大八木氏は述懐し、悔やんでもいられます。勝つことによるチーム全体の人間的な成長が大きいことを実感したからだそうで、以後は、2区はエースに任せることを大原則としているとのこと、興味深いです。

印象に残る本文を紹介します。

 「(選手個々の)目標を達成し、満足に変わるまでの手助けをするのが監督の第一の役目なのだと思っている。そして、その手助けの過程で人間的な成長をもたらすことが最も重要だと考え、私は指導者としてそこに重点を置いて日々、学生たちを指導している。いかなるトレーニングを積もうとも、人間的な成長がなくては選手としても満足いく結果が残せないのである。」

 「駒澤大学では茶髪、ピアスを禁止している。また試合中でも太陽に向かって走る場合など、必要に迫られた状況でなければサングラスの使用も許可していない。観ている人に応援される姿であり続けること。それが学生スポーツのあり方だと思うからだ。『どんな格好をしても速ければいい、強ければいい』はアマチュアでは通用しない。それはプロの考え方である。だから学生らしく、観ている方々に応援される姿で強くなりたいというのが基本にある。」

 王者と言われ、常勝と言われるチームづくりの原点があるように思えました。常に優勝候補に名を連ねることでは、シード権を逃してもなお健在であるメカニズムもわかります。

 バンクーバーオリンピックでの、ある選手の「服装の乱れ・・・問題」は、大八木流に当てはめれば、アマチュアではなくてプロ精神ということになります。そして、人間的成長という点でもどうなのかな?と疑問が残ります。
 この問題について、あるスポーツ解説者が、「スノーボードのハーフパイプのような危険と隣り合わせのスポーツに向かうには、有る程度『つきぬけて』いないといけないのかも知れない」と言っていた。そうであろうか。だとすれば、スケルトンやリュージュはどうなのか。スキーのジャンプの恐怖心は『つきぬける』には値しないのだろうか。これらのどの選手も、身なりや姿勢はきちんとしていて、実に人間的で魅力的だ。

 スポーツを観る目も、しっかりとした理念を持ちたいもの。この本から学びました。

 

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