わが国と関係が深い諸国の歴史を見直しながら、今回の感染症WARS(https://blog.goo.ne.jp/tributary/e/84da922cdd25a87b24d80a3e0c6df67b)流行後の世界を展望してみたい。まずはアメリカ合衆国である。
西洋史における米国史は1492年のコロンブス到着に始まる。原住民を駆逐し、英国との戦争を経て東部13州が独立したのが1783年である。米国は、独立までが約300年、独立してからまだ約250年の若い国である。建国精神として「自由と民主主義」を掲げ、その教義は今も続いている。独立後には、内部の対立から南北戦争(1861-65)を招き、大きく国力を消耗した。しかし、その終結を節目として一つの大国へと発展した。
第一次世界大戦では後から参戦して戦勝国となり、戦後は5大国の一員として世界に覇を唱えた。1929年からの世界恐慌による大不況に苦しむも、第二次世界大戦参戦で経済復興し、かつ戦勝も果たした。その結果、世界最強の経済力と軍事力を有する超大国としての地位を獲得した。これが南北戦争後たった80年のことである。その後はソ連邦を中心とする共産圏と世界大戦(東西冷戦)を構えたが、約40年後の1989年には勝利し(冷戦終結)、その2年後にはソ連邦を崩壊させた。これで20世紀の三度の世界大戦の全てに勝利し、唯一の超大国として地位を不動とした。しかし21世紀に入ると、9.11事件(2001年)やリーマンショック(2008年)、そして今回のWARSの大流行等で威信が揺らぐ中、急成長してきた中国に覇権を脅かされている。
米国に一貫するのは、「自由と民主主義」への信念である。その伝道のため軍事力を盾にした覇権を保持してきた。伝道の足跡は国土や同盟国の拡張に残る。西進では、仏国・墨国・原住民との戦争で得た西部とハワイ、米西戦争で植民地化したフィリピン、太平洋戦争で得た日本・韓国の軍事基地や太平洋の島々などがある(更なる西進は朝鮮戦争とベトナム戦争で停止した)。東進では独国に基地を置き、冷戦後には旧ソ連の衛星国の多くをNATO体制に組み込んだ(更なる東進は露国のクリミア併合で停止した)。南進ではグレナダ侵攻やパナマ侵攻、石油利権を求めた中東進では、湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争などを展開してきた。今も硬軟織り交ぜた戦略を多局面で展開している。
米国のGDPは20兆ドルで1位、中国の14兆ドル、日本の5兆ドル、その後は独国、英国、仏国、印度などが続く。石油決済をドルに限ることで、その基軸通貨としての地位を保持している。貿易収支や政府収支は大幅な赤字であるが、ドルが基軸通貨である以上、米国が債務不履行に陥ることはない。軍事費は年間7300億ドルでやはり1位、中国の2600億ドル、サウジの約700億ドル、そして印度、露国、英国、仏国、独国、日本(460億ドル)と続く。機動部隊や潜水艦は世界展開し、世界の要所に米軍基地を置き、現地の監視と防衛に供している。他の安全保障に関わる食料やエネルギー自給率も、多くの国が不安を抱える中(典型的には日本や中国)、米国はいずれも極めて高い(100%以上)。
米国の外憂は、他国からの覇権の侵害である。20世紀後半に米国に肉迫したのは、軍事力でソ連、GDPで日本であった。しかし、共に戦列から脱落した。21世紀には、GDPと軍事費の両方で中国に2位に付けられている。中国/米国比でみると、GDP(兆ドル)は2000年の1.2/10(12%)が2019年には15/20(75%)に迫り、軍事費(億ドル)も2000年の220/3200(7%)が2019年には2600/7300(36%)にまで縮まっている。中国が覇権を狙えば、代理国同士の軍事衝突か、米中の非軍事的な戦争が起こるだろう。事実、経済戦、情報戦(https://blog.goo.ne.jp/tributary/e/096bec3064d64f62f4077c88a02ebf37)、人間生物兵器戦(https://blog.goo.ne.jp/tributary/e/82fc0bcdc251a171c0b89609e8516eaa)などは進行形であり、既に戦争状態にある。覇権を脅かす国は叩き潰すのが米国の国是である以上、この米中戦争にも犠牲を厭わないだろう。
強大な米国の内憂は、人種問題である。原住民の殺戮、解放宣言(1862年)までの奴隷制度、公民権法制定(1964年)まで合法であった黒人差別(白人と黒人の同席や結婚の禁止など)が歴史の汚点として残る。わが国との関係でも、日本が国際連盟に提案した人種差別撤廃案の棄却、排日移民法、日系人強制収容などがあった。今でも白人警察官による黒人殺人が契機となり大規模なデモが発生する。拝金主義、訴訟社会、銃社会なども問題とされている。しかしこれらは、建国の基盤であるキリスト教信仰と「自由と民主主義」という教義に照らせば、逆に言えば、個人の自由の喪失を避けようとすれば、当然の帰結でもある。この自由への絶対的な信仰こそが、米国の強大さと覇権を支えている。
この米国とわが国はいかに付き合うべきか。米国にとっては、日本は江戸末期の国交開始の頃から油断ならない国であった。そして80年後に、中国(特に満州)での利権を独占しようとする日本を打ちのめして雌雄を決した。戦後は、共産圏の太平洋進出を阻止する橋頭保として日本を位置づけ、同盟関係を保持している。日本にとっては、米国は安全保障条約を結ぶ唯一の国であり、軍事的に米国と一体化する以外の選択はない。米国の属国などと揶揄されることもあるが、他の覇権国の属国になるのと比べれば遥かにましである。支配者の思惑を忖度するのは、処世術の基本である。親分を立てれば、親分は威信をかけて子分を守る。但し、所詮は他人、いよいよとなった時には切り捨てられる覚悟が必要である。
米国は若く、その教義である自由と民主主義故に、政策の揺れ幅が大きい。その巨体故に、その揺れに周囲が振り回される。しかし、民主主義という政治構造故に、揺れからの復元力も大きい。国是は肥大した個である覇権国の地位を保つことであり、これが神への信仰の証しともなっている。この確信を脅かさないようにしつつ日本の存在価値を認めさせることが、賢い付き合い方だろう。
神輿に乗るお山の大将も、担ぎ手がいなくなれば転落することは承知の助である。