支流からの眺め

日本神話(3)皇統の正統性・神聖性

 日本神話を一言で言えば、それは皇族の祖伝だ。天地の間に様々な神々が生まれ、国土を造り、アマテラスの命によりその子孫がその地を治め、遂には天皇として日本全体を統治するという話だ。神の血を引く皇統は冒すことのできない神聖性を有し、天皇による日本統治に正統性を与えている。

 アマテラスがニニギに下した命は「天壌無窮の神勅」(永遠に続く神の命令)だ。これが皇統による日本支配の最大の根拠になる。併せて多くの神を随行させ、宝物(三種の神器)も授けた。神武東征の際にもアマテラスが神剣で苦境を助けた。これらは天皇家が神の庇護の許にあるという暗示になっている。

 ニニギから神武までは三代あり、この間に山の神と海の神の縁戚となった。神武以後の八代の天皇は存在が疑われているが(欠史八代)、その真偽は別にして、八代(多くの代の意味かも)を父子の直系継承で重ねている。血統が純化し、他の豪族とは異なる冒しがたい純系の血族になったということだ。

 その一方で、天皇の祖神とニ百以上の豪族(地方の国造や県主なども含む)の祖神を結び付けてもいる。例えば、アメノコヤノミコト(天岩戸の前で祝詞を奏上)は中臣氏(藤原氏)の祖神だ。祖先を神話に入れて縁付けることで、豪族の矜持を満たし天皇に忠誠を尽くすのが祖法となるように誘導している。

 ここで重要なのは祖霊への信仰だ。豪族の首長は祖を貴ぶ故に、その上位にある皇統への崇拝が強力な行動規範となる。また、多くの神々が結婚や性行為以外の方法を暗示する所作で生まれている。これは、性行動を人と違えて神々の神聖性を高める効果があるかもしれない(または、近親婚を隠す意図か)。

 神と自然界との位置づけも特筆すべきだ。天地開闢では神が自然界の中に生まれてくる。これは、Godが世界の創造主だとする聖書の天地創造とは全く異なる。神は敬拝すべきだが、神と人は共に自然の許にあり、断絶せずに繋がっているという話だ。これが皇族への親近感や人々との一体感の基盤ともなっている。

 アマテラスが女神で太陽神というのも意味深長だ。女性は子孫を生む性であり、創造と平和を象徴する。アマテラスは戦うことはせず、スサノオの蛮行にも身を隠しただけだった。太陽は万象を照らす命の根源であり、豊穣と希望を象徴する。世が乱れる悪天候の時も、太陽は雲の上で輝き続けいつか再び現れるのだ。(続く)

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