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アメリカなのかヨーロッパなのかーグリーンランド

2022-11-12 23:57:36 | 旅行

さて、前回の記事でアメリカの庇護のもと第二次世界大戦を乗り切ったデンマークをご紹介しました。

 

今回は第二次世界大戦後のグリーランドと独立問題などに焦点をあてていきたいと思います。

 

 

アメリカからの助けで第二次世界大戦でも大きな被害を出さずに乗り切ったグリーンランド。

1953年には植民地から海外郡へと昇格しデンマーク議会に代表を送れるようになります。

 

しかし第二次世界大戦後のヨーロッパではアメリカや日本といった経済大国に対抗するため、

フランスやドイツなどを中心に経済統合が進められていました。

デンマークも国民投票の結果1973年に欧州共同体へ加盟することになるのですが、

実はこの投票、グリーンランドでは反対票のほうが多かったんです。

 

というのも、グリーンランドは地理的にヨーロッパよりも北米大陸のほうが近く、

貿易などもアメリカやカナダのほうがほかのヨーロッパ諸国よりも多かったんですね。

実際首府のヌークからはコペンハーゲンやパリまでは約3,500kmほどなのに対して

ニューヨークまでは約3,000km、モントリオールまでは約2,500kmとかなり近いですね。

そのためグリーンランドとしてはいくら欧州域内の貿易が自由化されてもその恩恵にあずかれず、

逆に域外貿易の関税があがるなどマイナス面のほうが多くなってしまったのです。

 

こういった問題をうけてグリーンランドでは独立運動が盛んになっていき、

1978年には一部の外交権も含めた高度な自治権を獲得し、

1985年には独自で欧州共同体からの離脱を行っています。

 

しかしながらデンマーク本国は現欧州連合の加盟国となっているため、

デンマーク国籍を持つグリーンランドの住民は自動的にEUの市民権を保持します。

一方でグリーンランド自体はEUに加盟していないため、

欧州議会などの選挙権はグリーンランドでは行使できない決まりとなっています。

 

 

それではグリーンランドとアメリカの関係とはどのようなものなのでしょうか。

 

グリーンランドは先述の通り、第二次世界大戦中にアメリカの庇護下に入っていました。

そしてそのまま世界は冷戦期に突入するわけですが、

アメリカから見て地理的にソ連に近いグリーンランドは戦略的に重要な地とされ、

グリーンランド西岸北部にあるチューレに爆撃機用の基地が建設されることになります。

1953年に完成したこのチューレ空軍基地はソ連からの攻撃の迎撃基地とされ、

1961年には弾道ミサイル早期警戒システムが配備、基地の人員は1万人を超えていました。

 

その後基地の規模は縮小され現在はアメリカ宇宙軍の基地となっていますが、

弾道ミサイルの警戒や人工衛星の追跡などの任務が行われています。

 

そんな地理的、歴史的に近い関係にあるアメリカ合衆国との関係について、

2019年にある事件が発生します。

 

それは当時のアメリカ大統領であったドナルド・トランプ氏が

グリーンランドの購入を検討しているとされた事件でした。

この際特に具体的な金額などが明示されたわけではありませんでした、

トランプ大統領もグリーンランド購入に「非常に興味がある」と乗り気な姿勢を見せ、

もしデンマークが受けるのであれば実際に購入を考えていたと報じられています。

しかし実際にはデンマークのフレデリクセン首相、グリーンランドのキールセン首相は即座に拒否、

トランプ大統領はそのあとに予定されていたデンマーク訪問を延期するという事態にまで発展しました。

 

このグリーンランド購入に関しては単なるトランプ大統領の気まぐれではなく、

グリーンランドに豊富に眠るとされる地下資源などについて

近年中国やロシアが積極的に進出しているとされてきたこともあり、

それを牽制する意味合いもあったとされています。

また過去にはトルーマン大統領が1946年に1億ドルでグリーンランド購入を

デンマークに持ち掛けていたことがあるほか、

第一次世界大戦後には実際にアメリカがデンマークから

現在のアメリカ領バージン諸島を購入している経緯もあります。

 

しかしそこはデンマーク王国の構成国であるグリーンランド、

またトランプ大統領のキャラクターもあってか

このアメリカによるグリーンランド購入計画は一蹴されてしまったのです。

 

 

ではグリーンランドがこれからもデンマークとともに歩いていくかというと、

決してそうではありません。

現在でもグリーンランドでは独立問題が大きなファクターとなっています。

前回の記事から紹介していますがもともとグリーンランドはノルウェーの植民地であり、

また現在グリーンランドの住民は多くがアメリカ先住民イヌイットの子孫です。

つまり歴史的にも文化的にもデンマークから遠く離れています。

 

そのためグリーンランドではかねてより独立運動が盛んに行われてきており、

1979年以降には高度な自治権を獲得しています。

2009年にはこれまで公用語であったデンマーク語が外され、

グリーンランド語のみが公用語と認められています。

しかしいまだにデンマークにとどまっているグリーンランド。

それはなぜかというと、「お金がないから」なんです。

 

グリーンランドの主産業は漁業であり、輸出の9割近くを占めています。

現在もかつてグリーンランドを支配していた王立グリーンランド貿易会社を前身とする

ロイヤルグリーンランド社が世界有数の水産業者として経営を続けており、

日本にもエビを中心に多く水産物が輸出されています。

 

しかしそれ以外にはグリーンランドの経済を支えるほどの産業はなく、

観光業も冬が厳しく観光向きの季節が短いことや交通の便があまりよくなく

旅費が嵩むことからあまり成長していません。

一方でその厳しい気候から農業はほぼ行うことが出来ず、

食糧などは輸入に依存せざるを得ないのが現状です。

そのためグリーンランドは歳入の多くをデンマーク本国からの助成金に頼っており、

その額はデンマークの総輸出額を上回るほどの規模なのです。

そのためデンマークから独立しても食料などの輸入を賄うだけの歳入がなく

国としてやっていけなくなってしまうのです。

 

それがネックでなかなか独立に踏み切れなかったグリーンランドですが、

実は近年その様相が変わってきているんです。

 

その理由のひとつは地球温暖化です。

現在地球温暖化は極地の氷が融け海面が上昇しているとして

南洋の島国が沈みかけているなど深刻な問題を引き起こしています。

しかしグリーンランドのおいては若干事情が異なるんです。

グリーンランドには石油などの多くの地下資源が眠っているとされていますが、

島の大半が厚い氷に覆われておりその採掘は非常に困難とされてきました。

しかし温暖化でその氷が少しずつ解けてきており採掘できる可能性が高まり、

新たなグリーンランドの産業として大きく注目されています。

 

そしてそういった資源の採掘に大きく関わっているのが中国の存在です。

グリーンランドには世界最大規模のレアアースの鉱床があり、

グリーンランドミネラルズという会社が採掘や加工を行っています。

現在はこの会社の株式を中国企業である盛和資源が取得しており、

このレアアースの加工を一手に担っている状態になっています。

なおこの盛和資源の株式は中華人民共和国政府の自然資源部が持っており、

中国政府の影響力が非常に強い会社なんですね。

先述のトランプ大統領のグリーンランド購入発言も

こういったグリーンランドにおける中国の影響力拡大に釘を刺す目的もあったのではと言われています。

 

しかしグリーンランドではこうした鉱物開発でデンマークからの助成金への依存が少なくなり、

デンマークからの独立のトリガーになるともされこの開発を歓迎する意見も少なくありません。

しかしそれは裏側には中国など別の大国の影響下に入ることでもあります。

 

このままデンマークとともに未来に歩いていくのか、

もしくはその傘から一歩踏み出して独自の道を歩いていくのか。

 

これからもグリーンランドには注目していかなければなりません。



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