「100万ドルの夜景」の異名をとるアジア最大級の世界都市、香港。
19世紀にイギリスの植民地になって以来アジアの経済拠点として発展してきた香港。
その香港も1997年をもってイギリスから中国に返還されました。
しかし香港は「一国二制度」という特殊な行政区域に分類されています。
この一国二制度とは何で、また現在の香港はどのような状態に置かれているのでしょうか。
さて、1997年の香港返還に向けて発表された中英共同声明において、
中国は香港において本土で行われている社会主義政策を実施せずに資本主義政策を50年間に渡って維持するという
「一国二制度」を導入することが約束されました。
これに基づき1997年7月1日の主権移譲以降は中華人民共和国政府が外交権や軍事権を掌握し、
これまでのイギリス軍にかわって人民解放軍が香港に駐留するようになります。
一方で一般的な社会経済制度はイギリス領の時代から変わらず、
法体系もイギリス領であったころのコモンローがそのまま用いられることとなりました。
この一国二制度においては香港経済の自由度は維持されており、現在でも香港は
「世界で最も自由な経済体」のひとつに挙げられています。
イギリス植民地時代、特に第二次世界大戦直後の時代は繊維産業などの軽工業も盛んでしたが、
現在そういった製造業などは香港の北側、深圳や東莞など珠海デルタ地域に移行しており、
香港自体は金融や物流拠点として性格が強くなっています。
また土地が少ないことからサービス業が域内産業のうちサービス業が80%以上を占めるなど割合が高く、
特に観光業はGDPの5%を占めるまでに成長しています。
香港の美しい夜景が一望できるヴィクトリア・ピークや繁華街に立地する大規模なショッピングモールなどが人気で、
2005年にはランタオ島に香港ディズニーランドがオープンしています。
一方で政治や社会制度はというと、現在香港では一国二制度が守られているとは言えない状況です。
現在香港では香港版ミニ憲法ともいえる「香港特別行政区基本法」のもと
高度な自治権を有しており行政長官や立法会の完全なる民選の検討が規定されています。
しかしながら香港が返還されてから25年以上が経過した現在でも民選化はされておらず、
そればかりか民主化が後退しているといわれています。
香港には表向きには中国共産党の組織は存在しないことになっています。
しかしながら香港の実質トップである行政長官の選挙は直接選挙ではなく間接選挙で選ばれるのですが、
この選挙に立候補するためには選挙委員会を通して中国当局の許可が必要となっているんです。
また選挙委員会も基本的には親中団体のみで構成されており、民主派の人は選出されません。
つまり「中国当局が許可した人」を「親中団体から構成させる選挙委員会」が選ぶという
実質的に中華人民共和国の意に沿う人しか行政長官になることができないシステムなのです。
これに対しての香港人の不満は大きく、度々デモなどが行われてきました。
なお香港基本法では2007年以降直接選挙へ切り替える可能性も示唆されていましたが、
「2007年以降とは2007年のことではない」との法解釈でいまだに切り替えが行われていません。
こういった法解釈の権利も香港政府ではなく全国人民代表大会(全人代)が持っているんですね。
そんな香港の民主化運動をめぐって近年注目されたのが香港国家安全維持法です。
香港国家安全維持法は2020年の6月に全国人民代表大会で成立した法律で、
中華人民共和国政府は独自の治安維持機関を香港に設置することができ
場合によっては逮捕した人を香港以外の場所で裁判にかけることができるようになります。
また民主化運動など安全保障にかかわる裁判は裁判官を行政長官が指名できたりと
香港の安全保障に中国政府が大きく関わることができるようになったのです。
もちろんこの法律の解釈は香港政府でなく中国政府に委ねられています。
この法律により香港の司法は大幅に中華人民共和国のものに近づいており、
これにより中国政府の裁量で民主化運動の賛同者などを容易に逮捕できるようになり、
香港市民の表現の自由に大きな制約を与えているとされています。
実際にこの法律が施行されるにあたり多くの人がSNSへの様々な投稿を削除したり、
民主派企業が抗議行動などを支持する広告などを一斉に撤去するなどの影響が出ています。
また施行翌日には同法による初の適用者として10名の男女が当局に逮捕されました。
この法律に対しては香港の自由を奪うとして世界中からも批判の声が上がっており、
旧宗主国のイギリスは外相が言論の自由に対する攻撃であるとして非難しており、
300万人あまりの香港市民にイギリスの国籍を付与することを検討していると発表しました。
またアメリカもポンペオ国務長官がこれは一国二制度の約束違反であるとして批判したほか
トランプ大統領も「香港の自由は保障されなくなった」と発言しました。
なおこの法律では国外にいる外国人でもこの法律で処罰をすることが可能になり、
香港は国際刑事警察機構を通じて犯罪人引き渡し条約に基づき
条約締結国に容疑者の引き渡しを求めることが出来るようになっているため
カナダなど香港との条約を停止した国もありました。
日本は現在香港とは犯罪人引き渡し条約を結んでいないため
日本にいる日本人が同法に抵触したとして香港に引き渡される恐れはありませんが、
日本からも近く多くの日本人が住み、また日本にも多くの香港人がいることを考えると
この香港の問題は「他人事」ではないと思っていかないといけないのではないでしょうか。
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