「お義兄さんの行方はしれません。主人の義理の御両親に連絡したのですが、義兄とはとうに縁を切ったと言われました。お義兄さんは、高校生の頃にも今回のような事件を起こしていたそうです。」
「それは……?」
「……ご近所の方にお聞きしました。」
本家には求より大分年上の惣領がいて、粗暴で手が付けられないと言うのは、地元有名な話だったようだ。求の両親は、気に入らなければ暴れる息子に手を焼いていたらしい。
どうやら、求の実の両親もそのことは知っていたようだ。
それでも、養子にやることにしたのは、その乱暴な高校生が求にだけは優しかったのを知っていたからだった。
従兄弟の大きなお兄ちゃんは、周囲から孤立していたが、唯一慕ってくれる求切にした。顔を見た途端、息子と夫がいなくなってから、この人は心配のあまり食事を取っていなかったに違いないと、月虹は確信した。
化粧の下に隈を隠して微笑んでいたが、笑顔さえも無理して浮かべているように見えた。職業柄、月虹は顔色や気持ちの機微を読むのに長けている。
「さあ……、そろそろ行きましょうか。涼介君が待っていますから。」
「久しぶりに、落ち着いて食事をした気がします。ありがとうございます。ご心配をおかけしたんですね。」
さり気なく気を使ったはずなのに、読まれているのに驚く。この人も、人の顔色卓悅假貨を読ら生きて来たのだろうか。
「月虹ちゃん。これ、劉二郎さんに届けてくれる?」
「ああ、おかみさん、いつもありがとうございます。おやっさんが喜びます。近いうちに若い新顔連れてきますから、美味い飯食わせてやってくださいね。」
小さく指でわっかを作って、店の主人が請け負ったのに会釈を返し、月虹は店を出た。
話を聞く限り、父親を連れ去った男は一筋縄ではいかない気がする。自分よりも鴨嶋の公開大學 課程方が力になれるのではないかと思う。帰って相談してみようと思った。