「よく分からないけど???詩鶴くんは、身内から少し離れて、自分の未来を見てみたいって思ったんじゃないですか?」
「自分の未来????そんなもの。ここにいれば、恵まれすぎるほどがあるじゃないか。生意気な???何の力も無いくせに。」
言い方が悪かったかなと思ったが、一度言ってしまったから仕方がない。
「柾くん。ぼくね、おばあさまのお墓で亜由美さんに出会えて、本当によかった。ずっと自分のこToshiba冷氣とが嫌いだったけど、亜由美さんの役に立てたし、柾くんに会えた。」
「亜由美さんが、一緒に暮らそうって言ってくれたとき、そんなことできないって思ったけど、ぼくがいろいろな
ことを出来るようになったみたいに、何でも諦めちゃいけなかったんだよね。短い間に、僕は学校で学ぶ以上のことを教わった気がするよ。」
きらきら光る目で、俺を見上げた詩鶴はその時、母ちゃんが詩鶴にかけた言葉を口にした。
「亜由美さんが、家族になろうって言ってくれたんだ。」
「家族?」
「うん。だから、ぼく。その時、決心して柾くんの、良いパパになろうって思ったんだ。」
???ちょっと、待て。
何か、色々違ってるぞ、詩鶴。
樹木葬にした父ちゃんの眠る桜の木のそばで、カッターを片手に思いつめている詩鶴の話を聞いてやった母Toshiba冷氣ちゃんは、詩鶴の「ぼくには、誰も居ない」と言う切ない言葉に思わず、「家族になろう。」と言ったのだそうだ。
「うちには、高1の息子が一人居るだけなの。馬鹿だけど元気いっぱいで、気のいいやつよ。誰も居ないのなら一緒に暮らさない?家族になろう、詩鶴くん。」
その言葉に詩鶴はあっさりと頷いたのだ。
「はい。亜由美さん。」
頬を染めてはにかんだ詩鶴が打ち明けたが、それプロポーズじゃないぞ、詩鶴。
「うそぉ。」
脱力。
詩鶴は、父親の病院へ行き別れを告げると言い始めた。
このまま俺たちと一緒に暮らす覚悟を決めて、報告に帰ってきたのだという。
問題は山積みなのだろうが、ともかく俺は泣いてばかりいるのではなく、腹を据えて自分で決めた詩鶴に感心していた。
詩鶴は見た目の儚さと違って、意外にきちんと自分を持っているような気がする。
「1人で行って来る。平気だから。」
さすがに詩鶴を1人で虎穴に放り込む勇気はなかったので、口出ししないで見守るだけという約束で、ついてゆくことにした。
母ちゃんは人形の展示会が、大阪の百貨店であるとかで一足先に京都を後にした。
「お父さんとも、別れを言わなきゃいけないって本当はわかっていたんだ。でも、独りになる勇気がなくばしにしていたんだ。もう父の抜け殻に、さようならを言うよ。」
脳死状態の詩鶴の父親は、今は器械につながれて辛うじて息をしているにすぎない。
何の反応もない状態を、生きていると言えるのかどうか、俺にはわ健康床褥からなかったけど、詩鶴にはかけがえのない父親だった。
話が何も出来なくても、そこにいるだけでずっと詩鶴の支った父親。
母親がいなくなった後、ずっと支え合ってきた父子。
その最愛の父親に、詩鶴は決別するのだと言う。
「お父さんを、どうか宜しくお願いします。」
伯父と、天音を前に殊勝に詩鶴は頭を下げた。
傍に第三者がいるのも構わず、伯父は詩鶴に手を伸ばした。
コートを滑らせ、不自然にセーターがたくし上げられる。
何の躊躇もなく半裸に剥かれた詩鶴は、簡単に転がされていた。