ウクレレとSwing(スヰング)音盤

How About Uke? (1958) / Lyle Ritz

謹賀新年の日にご紹介したい本作、世界のジャズ・ウクレレ史に燦然と輝く1958年の名盤である。ウクレレでジャズを弾く、という条件下においてこれを超えるアルバムはいまだに(おそらくは今後も)存在しないと思う。

このレコードの主役は、ライル・リッツ。LAの楽器店でアルバイトしているときに、お客さんに弾いて見せる必要がありウクレレを習得したという。それをたまたま見かけたのがジャズ・ギター界のレジェンド、バーニー・ケッセルで、当時ヴァーヴ・レコードのA&Rマンも任されていた事からスカウトされ、このアルバムが実現した。よって本アルバムの内容もバーニー同様の西海岸ジャズであり、ベースには名手Red Mitchellが参加している。時代も1958年、ジャズの歴史を代表する名盤が次々と発表されていたジャズにとって最高の時期の作品で、「本物」の空気感をまとった、唯一無二のジャズ・ウクレレ音盤となっている。

A1 Don't Get Around Much Any More    
A2 Have You Met Miss Jones
A3 Little Girl Blue
A4 Solamente Una Vez (You Belong To My Heart)
A5 Moonlight In Vermont
A6 Ritz Cracker

B1 Lulu's Back In Town
B2 Playmates
B3 I'm Beginning To See The Light
B4 How About You
B5 Sunday
B6 Tangerine
B7 Sweet Joan

Bass – Red Mitchell
Drums – Gene Estes
Flute – Don Shelton
Ukulele – Lyle Ritz

B1やA1はライル氏のシグニチュア・チューンであり、晩年まで何度も再演された。A1はエリントン・ナンバーだが、ポピュラー・ファンにはポール・マッカートニーのバージョンでもお馴染みか。

このあと、もう一枚ウクレレのアルバムを同レーベルに吹き込むが、どちらもセールス的には伸び悩み、ライル氏はベースに転向。セッション・ミュージシャンとなり有名なレッキング・クルーの一員として多くのアメリカン・ポピュラー音楽のレコーディングに参加。晩年はハワイへ一時期移住し、そこでこの二枚のアルバムがウクレレの本場では伝説的な名盤として長年評価されていたことを知り、時にベーシスト、時にウクレレを手に活躍。一回り年下であるオータサンとの共演盤も大量に残している。2017年オレゴン州ポートランドにて死去、87歳だった。アメリカ本土におけるウクレレのレジェンドである。
 
ところで今日に至るウクレレ復権から再ブームへの原動力を担った功績者は世界に二人いる。日本においてはサザンの関口氏であり、ハワイおよびウクレレに対する狂おしいまでの愛と行動力に加え、芸能人という立場も最大限に利用し、オータサン再評価の立役者ともなった。一方アメリカにおいてはFlea Market Music主催者のJim Beloff氏をおいて他にない。このJim氏が「ジャズ・ウクレレの大名盤が奇跡的にCD復刻されたが、プレス枚数も少なく、間もなく在庫終了したら入手できなくなる。もう二度と再版されない可能性があるから、絶対今のうちに手に入れたほうが良い」と強力に推していたのが、このアルバムだった(最初のアメリカでのCD化は「Limited edition available until March 2007」という限定盤)。

その後、ウクレレの復権に伴い本作も廃盤どころか日本盤CDまで発売されたが、その時の日本語タイトルが「ハウ・アバウト・ウケ?」とデカデカと帯に印刷されていたのにはひっくり返った。Ukeはウクレレの事で、正しい発音は「ユーク」である。本番ハワイでは日本と同様「ウクレレ」だが、アメリカ本土だとウクレレの発音は「ユークレイリィ」或いは「ユーカレイリィ」となる。それでUkeは「ユーク」。つまりHow about Uke?は「ハウ・アバウト・ユー?(あなたの意見はどう?)」(=収録曲B4タイトル)を「ハウ・アバウト・ユーク?(ウクレレなんてどう?)」としたダジャレである。それを意味不明な「ハウ・アバウト・ウケ?」ではライル氏渾身のダジャレも台無しだ。きちんと確認しなかったレコード会社のせいで、50年以上もたって、異国でギャグがスベるとは、ライル氏の立場がない。しかし、その後もCDは再発が継続し、現在はもう一枚のヴァーヴでのアルバムと2in1になったものが出ているようだ。


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