今年度のノーベル文学賞を受賞したフランスの作家モディアノの”1941年パリの尋ね人”原題"Dora Bruder"(ドラ・ブリュデール)を読んだ。ユダヤ系フランス人の彼女の両親が新聞に出した娘を尋ねる広告を著者が見つけ10年あまりの歳月をかけて丹念にブリュデール一家を追ったノンフィクション。何故この尋ね人にモディアノが気を留めたのか。彼もユダヤ系のフランス人でフランスはヒトラーに加担してユダヤ人虐殺の一端を担ったと言う記憶が(当事、生を受けてはいなかったが)彼の出自の中にあり、強制収容所移送者記録名簿に出会い衝撃を受けた。彼の胸の内は煮えたぎりブリュデール一家の足跡をひたすら追い続けた。無残な結果を見るが「この事実を忘れてはならない」と言う彼の強い思いが伝わりとても切なかった。今日、フランスの学校教育の現場ではユダヤ人の強制収容所送りにフランス当局が積極的に参与した事実をはっきりと教えていると言う事を知り、史実は隠蔽せず正確に伝え続けなければならないとつくづく感じた。