直木賞受賞の”ホテル・ローヤル”は日陰の男女が端正な筆致で書かれていて決して淫らな情感は湧かず感心した。この”ブルース”も影山博人という出自もあやふやな…が「ぞっとするような色気があり、6本の指を持っている」男を軸にミステリアスに話が進む連作短編集で面白かった。指が6本あるが格好が良くて多くを語らない男…気持は悪いがこの男を知りたいと言う思いが膨らむ。著者は「原田康子の挽歌に影響を受けた」と何処かで言っていた。釧路を舞台に静かな流れの中にも背後にある苛烈な生き方の退廃的で暗闇の部分が、何故か夢まぼろしにさえ思わせる筆致が不思議でシャンソンやファドに通じるものを感じた。彼女には短編の名手になって欲しい。