所用があって静岡へ出かけました。カルディと言う輸入食品専門店でシュトーレンを見つけた。ドイツのクリスマス・ケーキ、近年日本でも知られるようになりました。12月1日からアドヴェント、キリスト降臨を待ち望んで一切れずつ切って食べるそうです。数年前ドイツやオーストリアのクリスマス・マーケットを巡った時、ウイーンの伝統のあるベーカリーで買って、N大のウイーンに留学していたT先生に少しお分けたらとても懐かしがり喜んでいらっしゃった。そのベーカリーも良く覚えていると話していました。静岡で手に入れたものはケルンで作られたもの。スパイシーでフルーツやナッツ入り、時間が経つほど熟成ししっとりとして美味しくなる。ドイツのシュトーレンは素朴なのに日本のものは手が込みすぎて価格を吊り上げ邪道です。
百物語の台本です。最後の「天守物語」は12の妖怪が出て来るが、12色の色鉛筆で色分けしてそれぞれを記憶するそうです。プロと言えども12の声色を使い分けるのですから並大抵ではないでしょう彼女は72歳。そして共演者がそこにいるかのように読まなければならないのですから。当市出身の詩人、大岡信の奥さんと彼女は友達でかつて”大岡信ことば館”で万葉集の幾つかの歌を朗読し演じた事があった。白石加代子のエナジーの爆発が小さなホールを揺るがしダイレクトに伝わり(5m弱しか離れていなかった)圧倒された記憶があります。
Eテレで白石加代子の百物語の最終回のドキュメントを見た(再放映)。今年の6月に最終回の99回が上演され、観たいと思っていたが体調不良でミスしてしまった。2010年朝日ホールで「うらぼんえ」と「干魚と漏電」を私は観ている。笑いあり涙ありそして怖くなり鳥肌が立つ、一人で朗読し演じ観客を巻き込む、その威力は凄いと思った。彼女の百物語は今年22年間の集大成を迎え泉鏡花の「天守物語」だった。「白石は猛毒(独特の個性を言っていると思う)をいっぱい持っているがその毒も良薬だ」と演出の鴨下信一は言っています。本人は穏やかで舞台では正直で一途、しかしその爆発力は猛烈。どうすれば心の中が見えるかを追求し…終に見えないものが見えてくる彼女の舞台。”見えないものの中に大切なものがある”…何処かの王子さまも言っていました。99回での終わりは100回目は本当にお化けが出てくると言う昔からの怪談の作法からだそう。次に白石加代子は何で爆発するのかとても興味がある。
クリスチャンではないけれど(私の口癖)クリスマスを楽しむ頃となりました。クリスマス・リースは2010年ウイーンのクリスマス・マーケットで買ってきました。フレッシュな時は良い香りがして紅い実も綺麗でしたがご覧の通りドライ・リースとなりました。4年たって色は落ちたが立派にリースを保っている。手前にあるのは方々の国で買ってきた木彫りやテラコッタのクリスマス・オーナメントです。一つ、一つにたくさんの思い出がありよく行って来たものだと我ながら胸が熱くなる…。来年の羊もいます。これはイギリスのもので(38年前の)本当の羊の毛を丸めて作ってある。羊のように穏やかに来年は過ごせますようにと願いをこめて…。
明朝は相当冷え込むとの予報に、続いた暖かさのため開き始めていたアロエの花を切り楽しむ事にした。こんなに見事にたくさん花をつけたのは初めて。軒下のアロエの一群は20年余り前、夫が私の実家から貰ってきた母の遺産物です。母は葉を細かく刻んでお砂糖を加え滲み出たジュースを万能薬と常備していた。玄関の横のアロエの一群を見る度に85歳まで(その後の10年弱は長男一家と共に)凛として独りで生活していた母を思い出す。
今年度のノーベル文学賞を受賞したフランスの作家モディアノの”1941年パリの尋ね人”原題"Dora Bruder"(ドラ・ブリュデール)を読んだ。ユダヤ系フランス人の彼女の両親が新聞に出した娘を尋ねる広告を著者が見つけ10年あまりの歳月をかけて丹念にブリュデール一家を追ったノンフィクション。何故この尋ね人にモディアノが気を留めたのか。彼もユダヤ系のフランス人でフランスはヒトラーに加担してユダヤ人虐殺の一端を担ったと言う記憶が(当事、生を受けてはいなかったが)彼の出自の中にあり、強制収容所移送者記録名簿に出会い衝撃を受けた。彼の胸の内は煮えたぎりブリュデール一家の足跡をひたすら追い続けた。無残な結果を見るが「この事実を忘れてはならない」と言う彼の強い思いが伝わりとても切なかった。今日、フランスの学校教育の現場ではユダヤ人の強制収容所送りにフランス当局が積極的に参与した事実をはっきりと教えていると言う事を知り、史実は隠蔽せず正確に伝え続けなければならないとつくづく感じた。