お好み夜話-Ver2

お誕生日の不調法

アダルトな女になったと、誇らしげに「砲丸投げ子」が店に入ってきた。

下僕のように「ハマちゃん」が付き従い、両手に抱えたプレゼントをかあちゃんに手渡した。

そうか、明日はかあちゃんの誕生日で、昨日は「砲丸投げ子」の誕生日だったのだ。

もちろんこちらも忘れていたわけではないけれど、毎年覚えていてくれてプレゼントを頂くなんて果報者だ。

寒いこの時期、去年「砲丸投げ子」から頂いたマフラーをかあちゃんは手放せない。

今年も違うマフラーと手袋を頂いてしまった。

何のお返しも出来ないけれど、もう少ししたら「砲丸投げ子」がハマるであろうあるモノが届くはずた。

「投げちゃん」それまで少々お待ちください。


ふたりの誕生日はともかく、本日は久々の一本を仕入れてあったので楽しみだった。

調子コキで杜氏がなにかも知らない男に飲ませるのは不本意だが、彼はこれが好きだというから仕方がない。

福井の銘酒「黒龍 純米吟醸」。

東北のお酒キャンペーンを始める前までは、この「黒龍」が定番メニューだったので、かれこれ11ヶ月ぶりのお目見えだ。


一段落したところで、ちょいと味見に一杯注いで、冷蔵庫に寝かせてしまおうとしたところ、
あらあらあらあららららら !!
この手を離れた一升瓶が厨房の床の上にダイブ、見事に割れて、いい香りの吟醸酒が床一面に

「ハマちゃん」に2杯、こちらに1杯注いだだけのまっさらなお酒が、一瞬にしてパアーだ

なんというお粗末、とんでもない不調法、愚かにもほどがある・・・・・

カウンターの向こうの「ハマちゃん」や「砲丸投げ子」のびっくりした顔と、覚めた目で「クソオヤジ」と主張している「マミちゃん」の顔が、見なくてもわかる。

バッカスの神が、「もうそろそろ控えなさい」というサインを送ったのだろうか・・・・・。

アダルトな女になったという「砲丸投げ子」の、どこがアダルトかという邪な考えを抱いたせいなのか・・・・。

クソオヤジになったせいで、手指から潤いが無くなったからというだけなのか・・・・・。


さようなら黒龍ちゃん、また会う日まで。


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