お好み夜話-Ver2

人生4日目

ボクは寝ていたのだ。

大の字になって、気持よく寝ていたのだ。

寝ることと泣くことと、おっぱいを吸うことが、今のボクの人生のすべてなのだ。


ママは急にママになってしまったので、少々ボクの扱いが荒っぽいし危なっかしいが、でもそれは仕方がない。

お腹の中でボクが動きまわったから、逆さまになってしまって、しかもへその緒が首に絡んでしまったので、お腹を切ってボクを取り出さなければいけなかったのだ。

ママはお腹が痛くて、歩くときもおばあさんのようにゆっくりと、ボクを抱っこするときも「よっこらしょ」といわなければならないほどだから、ボクはぜいたくはいえない。


でも今日の午後、清潔な病室の中に汗臭い匂いが2つして、場違いな男の人がふたり入ってきたので、ちょっとグズってみたのだ。

ママは嬉しそうだったけど、ボクは平和な眠りを妨げられたので、今できるささやかな抵抗ってやつを実行して、オムツにチビってやったのだ。

入ってきて図々しく椅子に腰掛けたふたりのおじさんたちは、こういう場所に来るには非常識にも、ランニングの格好をして走って来たようだった。

ママは「モグじい」と「シゲにい」だと紹介したが、ボクは早くかえって欲しいと思った。

だって、面会時間のあいだだけがママと一緒に入られる時間で、夜は他の子と一緒に別の部屋の小さなベッドに寝かされてしまうのだから。

それに「モグじい」はボクのことを「豪羽」とヘンな名前で呼んで、パパがつけてくれた名前をいってくれないからイラッとする。

だから、もうひとつ今のボクが出来るささやかな抵抗を試みて、口をチュパ、チュパしてみた。


おっぱいの時間になれば、あの図々しいおじさんたちも遠慮するだろうと思ったのだが、ママは平気でボクを抱え上げた。

でもボクにだってデリカシーってものはある。

ヘンなおじさんたちに神聖な食事を観察されたら、気がちってしまってうまくいかない。

ママもそうだけど、ボクもまだおっぱいを吸うのに慣れていないのだ。

仕方がないのでママはミルクを作って、ボクにくれることにした。


やっとこれで、少し安心した。

だけどおじさんたちも真似をして、ペットボトルの液体をチュパ、チュパするものだから、ボクはもうさっさと寝てしまうに限ると諦めた。


生れ出づる悩みを熟考するまもなく世に出されて4日目、この世にはこんなヘンなおじさんやおばさんがたくさんいるんだと知って、これから先の長い人生を憂うボクなのであった。

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