去年の暮れ、だった。
ふと読んだ「角川文庫」の作品紹介で「沢木冬吾」という作家を知り、「ライオンの冬」という小説に興味をもった。
主人公「伊沢吾郎」は82歳、旧日本陸軍狙撃手。
かつてフィリピン戦線で戦い、現在はうち捨てられた廃村で両親を亡くした孫娘の女子高生「結」と共に暮らし、軍人恩給と猟で生計を立て余生をおくっていた。
ある少年の失踪事件をきっかけに、自分の庭ともいえる山に怪しい男たちが現れ、現フィリピン政権をも揺るがしかねない過去の記憶が蘇った時、冬山が血で染まる戦いの火蓋が切られる。
愛する孫娘と山を守るため老兵は戦友「虎」と共に最後の戦いに赴く‼
山を知り尽くしたジジイと最新兵装の兵士たち、勝てる見込みのない戦いにホッと和むエピソードが盛り込まれ、読後は意外にも爽やか。
映像が容易に浮かぶ文章、非日常の中に微笑ましい日常の積み重ね、それが一気にカタルシスとなってクライマックスへなだれ込む。
様々な作家のお話しを読んできたが、合う合わないで言えばこの人「沢木冬吾」は合う。
というわけで次は「ライオンの冬」の倍ほどの厚みのある「天国の扉 ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア」を。
戦国時代から続く抜刀術「名雲草信流」の当主の娘が放火で焼死。犯人は名雲家長男「修作」の恋人「奈津」の父親だったことから親子は対立し父は失踪。
一方「修作」は身に覚えのない容疑をかけられ逃亡、「奈津」は土地を追われる。
信じられるのは誰か、守るものは何か、迷走しもがく「修作」は苦しみの中で相伝の奥義を悟り父との真剣勝負に臨む。
中盤までは非日常のなかの日常が丹念に描かれ、ん?ん?と思ったりもしたが、後半から一気に物語は加速。
大どんでん返しでクライマックス、ルークとベイダーのライトセーバーの戦いを彷彿させる親子の真剣勝負は圧巻。
死ぬほどの代償を払い、かけがえのないもの、真に守るべき意義を得た若者は希望という陽光の中去ってゆく・・・。
う~ん、うまい🤔
こうなったら読まずにはおられない、ってことで「償いの椅子」。
謎だらけでアンタッチャブルな組織・公安警察。
ある事件で脊髄に銃弾を受けたアウトロー「能見」は車椅子に頼る身になり街から消える。
そして5年後、自分や仲間を陥れた者をあぶり出し復讐するために街へ戻ってきた「能見」に、公安の非合法組織は徹底マーク。
だが「能見」はかつての仲間たちにも真意を明かさず、思春期に別れた妹とその子供たちと触れ合いながら平凡な日常をおくる。
そんな中公安の不適格者の烙印を押されはみ出した「桜田」が事件の核心に迫り、ついに大規模な陰謀か動き出し、破壊的な結末を迎える・・・。
ん、んーん?、昔こんなアクション映画を観たような、そうでないような???
非日常の中の日常と同様、凄惨な場面と微笑ましいエピソードの波状攻撃がいやが上にも物語を盛り上げる、見事‼
てなことで、本屋を回って4冊目は「握りしめた欠片」。
舞台は仙台に次ぐ架空の都市「海斗市」から沖合5キロの「泥洞島」。
かつてこの島は本土決戦のため砲台が築かれた要塞島だった。
戦後地元のヤクザが「海斗市」の覇権を争い、敗れた組織が「泥洞島」を一大リゾートアイランドとして開発、
だがその実態は飲む・打つ・買うの歓楽島だった。
7年前、高校2年の姉が謎の失踪をし、崩壊した家庭で歯をくいしばる弟は島から出てゆく日を待ち望んでいた。
そんなある日、島内の観覧車で従業員の死体が発見され、被害者の寝泊まりしていた船から失踪した姉の携帯電話が見つかった。
ヤクザから足を洗い真っ当な商売で凌いできた男たちの牙が再び剥かれたとき、事件は意外な方向へ進んで島を揺るがす。
「海斗市」という東北の都市は「ライオンの冬」にも登場する筆者お馴染みの街、要塞島のモデルになった島が実際にあるのだろうか❓
山と島という違いはあれ、閉ざされた舞台での活劇はエキサイティングだ。
そんな閉鎖空間を存分に活かした面目躍如なお話しが「約束の森」。
またまた登場する警視庁公安部の怪しげな「作戦」に巻き込まれるのは、未解決のまま時効を迎えた妻の殺人事件を機に刑事を辞めた「奥野侑也」。
ただただ心を閉ざしたまま朽ちてゆくような生活をしていた彼に、かつての上司から北の果ての貸別荘然としたモウテルに住み込むという任務を依頼される。
はじめは拒絶した彼の心を動かしたのは一枚の写真、モウテルの片隅にうち捨てられたように繋がれていた一匹のドーベルマン・ピンシャーの世を儚んだような目を見たからだった。
彼は元・警備犬のハンドラーでもあったのだ。
何かの予感と共に任地についた彼は、見知らぬ若い男女とひとつ屋根の下で家族を演じるように指令を受ける。
生意気な義手の男「隼人」と、オウムの「どんちゃん」を連れた娘「ふみ」との訳もわからない偽装家族生活の中で彼の望みはただひとつ、傷つき懐かないドーベルマンの「マクナイト」との絆を結ぶこと。
「沢木冬吾」作品を4作連続掛け持ちで読んで5冊目の「約束の森」、こいつはヤバイ、またも一気読みの勢いだ。
ニヤッとする映画の話しがちょくちょく出るのは、著者が映画の学校に行っていたからだと知り ( ちなみにこのオヤジは入学金が高すぎて断念した学校だ ) 、どうりでお話しが映像的だと納得する。
「沢木冬吾」作品に決まって登場するのは、可愛いく健気でおきゃんでワケありな女の子。
「約束の森」の「ふみ」はその集大成ともいえそうなキャラで、過酷な運命に翻弄されながらも懸命に生きることを選んだ天涯孤独な娘。
大事件の中で真の家族、絆を見いだせるのか・・・・・、読むべし‼
という訳で、「沢木冬吾」作品は残すところあと一作、デビュー作「愛こそすべて、と愚か者は言った」のみ。
この人ホント、今後も目を離せない作家であります。
読むべし‼
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