だんだん目の前が暗くなってきて、気がつくとストレッチャーに乗せられ処置室へ。
血圧を計ると、上61と劇低、心拍数もおいおいという数字で、足を高くして横になっていたがいつの間にか救急外来へ運ばれていた。
慌ただしい救急外来で心電計を付けられ注射を打たれ、点滴をされているうちに頭もはっきりしてきて血圧も心拍数も平常に戻った。
が、これまでの経緯、病歴がわかると
「今日は入院ですね」
と言われた。
極度の脱水症状に加え、炎症の数値を表すCRPやアミラーゼがとんでもなく上がっていたためだ。
しかしそれはできないと拒否すると、医療従事者としてこのまま自宅に帰すわけにはいかないと、こちらも重々わかっていることを切々と告げられた。
だがすでに女子医大の入院が決まっているし、今日は入院できない諸々の理由があった。
さんざんやり取りをして、手紙を持ってその足で女子医大を受診することで妥協した。
で、秋葉原から新宿へタクシーで向かった。
諸々の事情の一つには、小僧のことが心配だったから。
18日に小僧が作業所で引きつけを起こし、震えながらかあちゃんに抱えられて帰ってきた。
陽のあたる3階で横になっていたオヤジは、気がつくと小僧が向かい合わせのベッドで布団を引っかぶって寝ているのに気がつく。
だがこちらも体調は最悪で、何も言わず親子揃ってひたすら寝ていた。
やがてかあちゃんから事情を聞き、すぐ疑ったのは「コロナ」だ。
夕方になって小僧の熱はぐんぐん上がり、8度6分から9度になり起き上がる気力もなくただ寝ているだけ。
もしものことを考えてPCR検査をしてくれる近所の施設がないかと調べたが、散々たらい回しにされてようやく近所の医院でやっていることがわかり明日を待つことにした。
その明方リアルで嫌な夢を見た。
誰かと、小僧も含めて5人ほどで車2台で出かけることになり、なぜかオヤジは仲間3人の方に分乗し、免許も持っていない小僧がもう1台を一人で運転して後ろからついてくることになった。
そのことを最初疑問にも思わなかったが、やがて気がついてなんてことをしているんだと焦りだして後方を見ると、小僧は無表情でちょっと寂しそうな顔でこちらと目があった。
しかし車はどんどん車間距離をあけ、小僧の顔が小さくなってゆく・・・・・。
この夢の意味するところは何なのだろう?
小僧がコロナに感染し、オヤジは入院したまま今生の別れになってしまう。
その恐怖心がずっと抜けず、つい翌日の救急外来で入院を拒否してしまったのだ。
何でもない男ならそれほど心配はしないが、知的障害のある高熱を発している小僧を一人にしておけず、かあちゃんはかかりきりになる。
そういうわけで三井記念病院にはオヤジ一人で、「ちち」の車に乗せてもらって向かってのだが、上記の顛末に相成った。
女子医大でまた一からともいえる検査をし、「マリ子」先生ではない女医と対面して話したが、やはり医者は即入院を告げる。
当然だ、CRPは前回の入院時と変わらず高く、ここ1年間上がったことのなかったクレアチニンの数値まで上がってしまっていたのだから。
しかしここでも諸処の事情を訴え、医者も半ば匙を投げるようにして22日の月曜日の入院で手を打った。
入院前のPCR検査を受けて女子医大を出たのはもう6時に近い頃。
疲れた。
長い1日だった。
土日を挟んであと2日間で用意を整え、小僧のPCRの結果を聞き、とりあえず安心して入院をしたい。
今度入ったら年内は出てこれないかもしれず、手術の結果次第ではさらに入院が伸びる可能性もあり、悔いがないようにしておきたかった、
この騙し騙しした引き伸ばしが凶と出るか、もはや事は動きだしてしまった。
いい写真だから飾ろうとかあちゃんが言うので、2014年の東京マラソンに10㎞の障害者枠で小僧が当選し、オヤジは伴走を務めることにして臨んだ「東京マラソンEXPO」での写真。
カメラマンからゴールした時の表情でと言われて満面の笑み。
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小僧もオヤジもいい表情をしていると我ながら思う。
この時は元気だった、楽しかった、ダメダメな未来が待ち受けているとも知らず・・・。
「遺影にいいな」
と呟くと、かあちゃんが
「そうだね」
と言った。