もうほぼ20年前になるのか……。
向井千秋がスペースシャトルで宇宙に行った後、この本はけっこう長い間、平積みになってましたね。
わたしは読むのにやぶさかではなかったけれども、「そのうち」と思いつつ約20年が過ぎた。
今回読んでみて、実に面白い本でした。笑って泣けて、――地下鉄で読みながら泣いたよ。
何より情報量がけっこうすごい。
わたしはてっきり、宇宙飛行士の夫として、その珍しい立場(だけ)が売りの、
あっさりしたエッセイだと思っていたのだが、
いやこの情報量は相当ですよ。わたしの予想の5倍くらいあった。
宇宙飛行士の夫という立場だけで書ける本じゃない。
たしかにご夫婦の出会いとか、どうやって付き合うことになったか、結婚の流れは、とか
わりと詳しく順々に書いていって、そういう意味では想像から外れてなかったけれど、
その後に“宇宙飛行士・向井千秋の生活”が真打で出てくる。
これはねー。意志と能力に恵まれないとここまでは書けない。
取材力。コミュニケーション力。記憶力。好奇心。
宇宙飛行士の訓練は、配偶者の特権で実際にみられたものは一般人より多いとは思うけど、
見たからってそれが即理解に繋がるわけではない。
説明されたことをそのまま書き写しても、他人に伝わる文章にはならない。
伝達された知識は、自分が咀嚼して、再生産しないと単に羅列に終わる。
相当に取材はしたと思う。奥さんに。奥さんの同僚に。その家族に。係員に。
全体的にはほのぼのしたエッセイだけど、本人がのほほんとしてたら絶対書けない。
この細かさを、宇宙飛行士じゃない一般人が書いてくれたことが
――稀有。まれなる書物。
奥さんと、どれだけ会話しただろうと思いを致す。ほんの1ページ分の実験についてだって、
質疑応答、説明はどれだけ繰り返されただろう。それを飽きずに問い続け、訊き続けたダンナと、
それに飽きずに答え、説明したオクサンに拍手を送りたい。
……まあそんなことを言って、ほんの一部分は若干ダレた(わたしが)ところもあるんだけど、
こんな細々と書いて、最後まで読者の興味を引っ張っていくのがほんと素晴らしい。
バランスがいいんだな。
宇宙飛行士についての(一般人としての)専門的な説明に合間に、
チアキちゃんとマキオちゃんの肉声を入れる。そこで読者は息をつける。
また専門的な説明。そして夫婦の日常をちょっと写す。
ずっと宇宙飛行士について書き続けてたら、いくら読みやすい文章だからって、やっぱり飽きますよ。
だってそれほど宇宙飛行士の仕事は――多岐にわたっていて、細かい。
この人はもちろん向井千秋の夫である。と同時に(いや、多分より強く)専門医師。
そんな人が書くなら、自分の仕事のこともちっとは書きたくなるんじゃないかなあ。
だって、ただでさえ「向井千秋の夫」扱いは飽きるほどされたと思うんだ。
無意識にせよ、自分に仕事について主張したくならないだろうか。
病理医の何たるかというのはわたしは知らないけど、知られていないからこそ、
知らしめたくならないだろうか。
だが、この人はこの本の中で「向井千秋の夫」たる姿勢を崩さない。
自分の仕事にはほぼ触れず――多分面白いエピソードも色々あると思うんだ。
まあ医師の守秘義務で公に出来ることは少ないのかもしれないけど。
しかしあれだけ細々と書いて、自分の仕事には触れてないのは、――やはり相当な意志力を感じる。
マキオさん、お手柄でした。労作。宇宙飛行士自身が書いたら、絶対こうは書けない。
この本を世に出してくれてありがとう。
……そして、単行本で400ページを費やしてもなお、ようやく女房が離陸した場面なんですねえ。
なので打ち上げ以後のことは「女房が宇宙を飛んだ」にて今後読む。楽しみだなあ。
まあこの表紙も若干微妙だが……。内容と合ってないというほどでもない。
マキオちゃんは、……サービス精神旺盛で、にぎやかに見える人かもしれないけど、
実は気が小さくて、あれこれ人に気を使うタイプ。文は人なり、ってほんとに思ったね。
妻である向井千秋のことも誠実に見つめていて、
それは、普通の夫婦ではやはり稀有のことかと思う。
親友。というのがわかる気がする。
とても仲が良さそうに見えるご夫婦だが、それでもすれ違う部分があることも冷静に受け止め、
相手のことを分析し、対応している。
分析というとイメージが悪いかもしれないが、ダンナがオクサンを喜ばせようと思ったら、
観察と分析は不可欠ですよ。
最近面白い本が続いてくれてわたしは嬉しい。
向井千秋がスペースシャトルで宇宙に行った後、この本はけっこう長い間、平積みになってましたね。
わたしは読むのにやぶさかではなかったけれども、「そのうち」と思いつつ約20年が過ぎた。
今回読んでみて、実に面白い本でした。笑って泣けて、――地下鉄で読みながら泣いたよ。
何より情報量がけっこうすごい。
わたしはてっきり、宇宙飛行士の夫として、その珍しい立場(だけ)が売りの、
あっさりしたエッセイだと思っていたのだが、
いやこの情報量は相当ですよ。わたしの予想の5倍くらいあった。
宇宙飛行士の夫という立場だけで書ける本じゃない。
たしかにご夫婦の出会いとか、どうやって付き合うことになったか、結婚の流れは、とか
わりと詳しく順々に書いていって、そういう意味では想像から外れてなかったけれど、
その後に“宇宙飛行士・向井千秋の生活”が真打で出てくる。
これはねー。意志と能力に恵まれないとここまでは書けない。
取材力。コミュニケーション力。記憶力。好奇心。
宇宙飛行士の訓練は、配偶者の特権で実際にみられたものは一般人より多いとは思うけど、
見たからってそれが即理解に繋がるわけではない。
説明されたことをそのまま書き写しても、他人に伝わる文章にはならない。
伝達された知識は、自分が咀嚼して、再生産しないと単に羅列に終わる。
相当に取材はしたと思う。奥さんに。奥さんの同僚に。その家族に。係員に。
全体的にはほのぼのしたエッセイだけど、本人がのほほんとしてたら絶対書けない。
この細かさを、宇宙飛行士じゃない一般人が書いてくれたことが
――稀有。まれなる書物。
奥さんと、どれだけ会話しただろうと思いを致す。ほんの1ページ分の実験についてだって、
質疑応答、説明はどれだけ繰り返されただろう。それを飽きずに問い続け、訊き続けたダンナと、
それに飽きずに答え、説明したオクサンに拍手を送りたい。
……まあそんなことを言って、ほんの一部分は若干ダレた(わたしが)ところもあるんだけど、
こんな細々と書いて、最後まで読者の興味を引っ張っていくのがほんと素晴らしい。
バランスがいいんだな。
宇宙飛行士についての(一般人としての)専門的な説明に合間に、
チアキちゃんとマキオちゃんの肉声を入れる。そこで読者は息をつける。
また専門的な説明。そして夫婦の日常をちょっと写す。
ずっと宇宙飛行士について書き続けてたら、いくら読みやすい文章だからって、やっぱり飽きますよ。
だってそれほど宇宙飛行士の仕事は――多岐にわたっていて、細かい。
この人はもちろん向井千秋の夫である。と同時に(いや、多分より強く)専門医師。
そんな人が書くなら、自分の仕事のこともちっとは書きたくなるんじゃないかなあ。
だって、ただでさえ「向井千秋の夫」扱いは飽きるほどされたと思うんだ。
無意識にせよ、自分に仕事について主張したくならないだろうか。
病理医の何たるかというのはわたしは知らないけど、知られていないからこそ、
知らしめたくならないだろうか。
だが、この人はこの本の中で「向井千秋の夫」たる姿勢を崩さない。
自分の仕事にはほぼ触れず――多分面白いエピソードも色々あると思うんだ。
まあ医師の守秘義務で公に出来ることは少ないのかもしれないけど。
しかしあれだけ細々と書いて、自分の仕事には触れてないのは、――やはり相当な意志力を感じる。
マキオさん、お手柄でした。労作。宇宙飛行士自身が書いたら、絶対こうは書けない。
この本を世に出してくれてありがとう。
……そして、単行本で400ページを費やしてもなお、ようやく女房が離陸した場面なんですねえ。
なので打ち上げ以後のことは「女房が宇宙を飛んだ」にて今後読む。楽しみだなあ。
新装版 君について行こう (上) -女房は宇宙をめざす (講談社プラスアルファ文庫)
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向井 万起男
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まあこの表紙も若干微妙だが……。内容と合ってないというほどでもない。
マキオちゃんは、……サービス精神旺盛で、にぎやかに見える人かもしれないけど、
実は気が小さくて、あれこれ人に気を使うタイプ。文は人なり、ってほんとに思ったね。
妻である向井千秋のことも誠実に見つめていて、
それは、普通の夫婦ではやはり稀有のことかと思う。
親友。というのがわかる気がする。
とても仲が良さそうに見えるご夫婦だが、それでもすれ違う部分があることも冷静に受け止め、
相手のことを分析し、対応している。
分析というとイメージが悪いかもしれないが、ダンナがオクサンを喜ばせようと思ったら、
観察と分析は不可欠ですよ。
最近面白い本が続いてくれてわたしは嬉しい。
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