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プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

< アニメ 平家物語 >

2022年05月28日 | ドラマ。
こういうの作られると困るんですよ。

これはすごく単純な話で。

たとえばね、「鬼滅の刃」全23巻を30分アニメ11話に作って、
それを「鬼滅の刃」と名づけられたら困るでしょう?ってことですよ。
平家物語の内容は、鬼滅の刃よりもさらに情報量が多いですよね。
時代背景まで入れ込むのならなおさら。不可能。
それをアニメ11話で作ろうと、なぜ考えたのか。

50倍速くらいで見ている気分でした。
50倍速の「鬼滅の刃」を鬼滅の刃だと思えますか。
平家物語に手を出すのなら、せめて100回くらいの話数で取り組んで欲しい。
それを11話は狂気の沙汰。

原作を単に素材としてしかとらえてない。
だからあんなにズタズタに細切れにして惨殺してしまった。

事前の番宣動画で監督だか脚本が喋ってるところを見たんだよ。
大丈夫だろうか、こんな感じで……と思った。不安を感じた。

せめてタイトルは「びわの物語~異説 平家物語~」だよなあ。
この内容で「平家物語」を名乗ることが大問題だよ。
(教科書を別にして)人生で最初に出会う平家物語がこれで、
大多数がこれで最後になると思うと……
あかんわな。

11話で平家物語を描こうと試みることが最大の罪。乗り越えられない罪。



次に内容的な罪が少なくとも一つあって、徳子が主役で、時子がああいう風に
扱われていると、最後の安徳帝入水の意味が変わるんだよなあ。

平家物語は滅びの物語。
身分的には取るに足りない存在だった平家の興隆、その栄華。
その慢心、その横暴、人心が離れるさま。
怒涛のような反平家の動き、源氏の台頭、追い出され落ちてゆく平家の姿、
浮草のように漂う苦しみ、死を覚悟した(あるいは覚悟出来なかった)人々の姿、
そして壇ノ浦での一族の死。

安徳帝の死は平家の滅びの頂点――滅びの頂点というのもおかしな日本語だが、
一族の死のシンボルだ。
それが作中で清盛と同じように愚かしく描かれている時子に先導されて
あっさり入水すると、まったく美しさも華々しさもない。
単に幼子のあわれさだけのことになってしまう。

時子と安徳帝は美しく描かなければ。
「海の底にも都はございますよ」
この台詞がどれほど憐れに聞けるかに全てがかかってるのに。
平家物語の主題の滅び、もっとも重要な場面だというのに。

安徳帝の入水の場面が違うから、その後に続く大原御幸の場面も変になってしまう。
徳子が最初からあんなにペラペラしゃべってはいかん。
我が子を死なせた母の。一族全てを失った孤絶。生き残った悲哀。
身のうちに吹き荒れた慟哭。
そこをまったく通り過ぎて微笑まれてもね。

まあ大原御幸が3分くらいでエンドロールとともに描かれるんだから、
その雑さは推してするべし。


※※※※※※※※※※※※


という根本的な「平家物語をアニメ化すること」の問題点は、
この作品には厳然としてあるのだが、

絵はきれいでしたね。

そこは最上の部類に入る。とりわけカラーコーディネートと構図、
花鳥風月を取り入れたこと。
特に花鳥風月については、この50倍速の中でよく入れたなと思うほど。
話は逆で、取り入れたから50倍速になったともいえるのだが、
取り入れなくてもせいぜい40倍速なので、話のふっとびぶりは変わらん。
ならば美しいものを見せてくれた方が勝ち。

ふっとんでいるからこその画面切り替えの鮮やかさもあったとは思うんだけどね。
でもそれがあるからこの倍速でも良し、ということにはならん。


ただキャラクターについては、顔面偏差値を平均的に引き上げて欲しかった。
これをいわゆるアニメ絵で作られていたらそもそも一話から見てないから、
絵自体のテイストはこれでいいのだが、
主役級の維盛、資盛、清経が全員微妙。完璧にかっこよくする
必要はないが、もう少しかっこいいに寄せても良かったんじゃないか。

わたしは知盛がお気に入りなので、ああいう脳筋系に描かれたのは残念。
知力武勇兼ね備えた男前であって欲しかった。
宗盛もちょっとくずしすぎ。情けない人であっていいんだけど、
あの顔では庶民である。

後白河法皇と清盛ももっと底迫力がある人物に描いてくれないと
物語に厚みが出ないんよなー。
時子は一族の大刀自、賢夫人であるべきだった。
このアニメでは徳子だけがヒロインになってしまった。


50倍速にして一点筋を通すびわのような存在がなかったら、
特に低年齢層、あるいは平家物語を知らない層には全く訴求しなかったと
思われるので、その登場はしょうがないことではあるのだが、
びわのようなキャラクターを入れることで話の軸が相当にずれる。
出来事は出来事でしかなく、びわと各人の会話に大半の尺が取られるからね。
やっぱりタイトルは「びわの物語~異説 平家物語~」の方が良かった。


※※※※※※※※※※※※


しかしここまで言ってきて驚くべきことに、
……わたしは平家物語を読んだことがなかった!

歴史エッセイを読んでも「平家物語では~」とか、
能や歌舞伎でも元ネタとして平家物語を相当に引かれるから、
読んだことがないのを忘れていたよ。

史実と合わせて、あらすじの大元のところは押さえていると思っているが、
フィクションとしての細かいところ(要所以外のところ)はわかってない。
これは読むべきだろうなあ。

いずれ、10年以内には池澤夏樹個人編集の「日本文学全集」を読むことに
なるだろうが、古川日出男訳でスタンダードが読めるのだろうか……。
学究的な平家物語も読んでおいた方がいいか。

実は吉川英治の「新・平家物語」を読みかけて止めた過去がある。
難しくはないし、つまらなくはない。読めば読めるところを、
……しかし吉川英治とか司馬遼太郎の作品は、王道すぎるきらいがある。
文句のつけどころもないというか。読む前から分かっている気がしてしまうというか。
いつでも読めると思って止めてしまったんだよね。
まあいまさら読む気にはならないんだけど。そしたら現代語訳を読むかなあ。

……でもよく考えてみると、「新・平家物語」読んだかもしれない。
1度目は止めたんだよね。でも2度目で読んだ気がしてきた。
「六代被斬」がいいタイトルだなあと思った記憶があるから。
でも内容はほとんど印象にない。……読んでないのと同じである。


読んだこともないのに「アニメは平家物語をわかっていない」とけなすわたしも
どうかしているが、とにかく平家物語と銘打ってたった11話しか作らない
製作者側も反省して欲しい。
ああいう風に作って終わったら続編も出来ない。
本腰を入れて取り組んで欲しい素材だったよ。平家物語は。



……と、ここで終わろうとしたんだけど、
声優さんたちの豪華さとその演技にも触れておく。

ここ2、3年で声優に興味を持ったわたしは知っている声優に対する贔屓が
大いにあり、この作品は知っている声優ばかりが出てくれていたので嬉しかった。

しかし声だけ聴いてると誰が誰だかわかりませんな。
わたしは声を聞いて顔が浮かんで来るのは鑑賞するのに邪魔だと思っていて、
出来れば声優の個性を消して声を聞きたい方。
まあ声でわかったからといってその声優が下手だということにはならないけど、
今回は岡本信彦、花江夏樹はちょっと現実にかえってしまうところはあったね。

ただ見た後で(録画を消した後で)「え!この役この人がやっていたの?」って
ことが多々あったから、知ってて見たかった気もした。矛盾するが。
村瀬歩が本当にわからなかった。上手くなったんだなあ。
木村昴もわからなかった。
早見沙織はつい最近本人の方を知ったことで好きになったので、
徳子であってくれてよかった。



美点は多々ありつつ、根本の点が不満と言わざるを得ない。残念な作品でした。





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