ChatGPTでも、Geminiでもない…ネット情報を学習し尽くした「生成AI」の次にやってくる"進化系AI"の実力2024/12/19 07:15PRESIDENT Online 掲載<
■自分と同じ価値観で判断する「分身AI」の登場
たった2時間のインタビューで、あなたと同じ判断を下す「分身AI」が作れる──。スタンフォード大学とGoogle DeepMindの研究チームが、衝撃的な研究成果を発表した。人間の意思決定を85%の精度で再現できるAIの開発に成功したという。
2022年11月に鮮烈なデビューを飾ったChatGPTの登場以降、生成AIはすっかり一般企業に浸透した。現在では、米トヨタの研究部門が車両デザインに取り入れていると報じられているほか、すでに米企業の7割で導入されているとの調査結果がある。
一方、OpenAIやGoogleなどAI開発各社は、次世代モデル開発における性能の頭打ちに悩む。そこで、次なる一手として期待されているのが、対話形式ではない新たなタイプのAIだ。パソコン操作を完全に自動化するAIエージェントや、人間に代わって判断を下すモデルなどの開発が進行しており、日々の作業を自動化する未来も見えてきた。生成AIの開発路線は今、大きな転換点を迎えている。
■米企業の7割以上が生成AIを導入、トヨタも車両デザインに活用
ChatGPTやGeminiなど、現行型生成AIの導入はすでに幅広い業界で進んでいる。IT市場調査大手の米ガートナーは9月、産業界における生成AI活用の実態調査結果を公開した。
代表的な活用事例として、トヨタの取り組みが注目を集めている。米シリコンバレーに本社を構えるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)はStability AIと提携し、車両デザインプロセスに生成AIを導入。手書きの初期スケッチから様々なバリエーションを生成できるようになり、デザインフェーズの時間短縮や後工程での予期せぬ変更の最小化、さらにはスケッチ作成の高速化を実現したという。
ガートナーが調査対象とした145件の導入事例のうち、業界別では、ライフサイエンス分野が39件と最も多かった。同分野の導入効果としては、業務効率化が23件で突出しており、経済面以外での価値向上が8件、収益増加が5件、リスク管理が3件と続く。
ライフサイエンスに次いで導入事例が多いのは、交通分野で35件だった。内訳は業務効率化と経済面以外での価値向上が共に16件で並び、収益向上とリスク管理はそれぞれ1件と2件で少ない。分野によって効果は異なるものの、業務効率化が最も大きな割合を占めている傾向が強い
まったく導入しない企業のほうが少数派に
このほか、銀行、投資サービス、小売、医療サービス、通信サービス、製造など、幅広い産業で生成AIの導入が進んでいる。
生成AIをまったく導入していない企業は、もはや少数派と言えるかもしれない。米ペンシルベニア大学のウォートン・スクール経営大学院はこのほど、マーケティングコンサルティング会社のGBK Collectiveと共同で、企業における生成AIの採用状況に関する調査報告書を発表した。
調査は従業員1000人以上からなる大規模企業を対象に、上級幹部800人以上に対して実施された。その結果、生成AIの週次利用率は2023年の37%から2024年には72%へと、約2倍に増加していることが明らかになった。特に、これまで採用が遅れていたマーケティングや人事部門での利用が顕著に伸びているという。
報告書によると、生成AIに対する経営幹部の受け止め方にも変化が見られた。導入初期には「好奇心」や「驚き」といった反応が主だったが、現在では「満足」や「興奮」といった、より生産的な感情に移行。また、AIに職を奪われるのではないかといった否定的な懸念については、当初と比べて弱まってきているという。
■学習させてももう進歩しない…生成AIに見えてきた限界
課題もある。多様な業界で導入の進む生成AIだが、そのロードマップは順風満帆というわけではない。性能の向上が求められるなか、早くも成長に陰りが見えてきたとの指摘が出始めた。
現状、文章系の生成AIにおいて誤った回答を自信ありげに示す「ハルシネーション(幻覚)」が問題となっているほか、イラスト系AIが人間の指などの入り組んだ物体の描画を苦手とするなど、制限がある。性能向上は急務だ。
米ITメディアの「インフォメーション」は、OpenAIの次期主力モデル「Orion(オリオン)」の開発状況を報じた。OpenAIの従業員による内部テストでは、既存モデルを上回る性能を示したものの、GPT-3からGPT-4への進化ほどの飛躍は見られなかったという。特にコーディング分野では、従来モデルを安定的に上回ることができていないとされる。
この状況を受け、OpenAIは新たに基礎チームを設置。学習データの不足に対処すべく、AIモデルが生成した合成データを再び学習源として活用する次善策や、学習後のモデル改善に注力する方針だ。ただし、AI生成物の再学習によるデータ汚染と、学習品質の低下が懸念されている。同社はOrionのコードネームで知られる次期モデルのリリースを、来年以降に持ち越した
まったく新しいAIの姿
米テックメディア大手のヴァージは、「AIは壁にぶつかっているのか? AIの専門家は皆、新しいモデルがスケーリングの壁にぶつかっていることに同意しているようだ」と題する記事を掲載。生成AIの限界を報じている。
AI開発はこれまで、学習するデータ量と計算能力を増やすことで、指数関数的な性能向上が得られるとされてきた。しかし、Googleをはじめとする各社で、次世代AIモデルの開発において収益逓減が見られ始めている、と記事は指摘する。
収益逓減とは、投入するリソースを増やしたにもかかわらず、成果がほぼ頭打ちとなる状態を指す。この「壁」の存在により、次世代の主要AIモデルが現行モデルから飛躍的な進化を遂げるという従来の未来予想図に影が差し始めた。そこで求められているのが、ChatGPTの延長線上にない、まったく新しい生成AIの姿だ。
■グーグル系研究機関が「人格コピーAI」を発表
このように既存の生成AIに限界説が囁かれるなか、注目すべき新たなモデルが発表された。ユーザーの問いに答えるだけのChatGPTとは異なり、本人に代わり、本人の価値観で物事を判断するAIエージェントだ。まだ研究段階だが、査読前の論文として公表されている。本人の思考を85%の精度で真似られるという。
マサチューセッツ工科大学が発行する科学技術メディアのMITテクノロジー・レビューは11月20日、「AIがあなたの性格を再現できるようになった」と報じている。ここで取り上げられているのが、スタンフォード大学と、Google系列のAI研究機関であるGoogle DeepMindによる新しい研究だ。「2時間のインタビュー」を受けるだけで、思考パターンをAIモデルとして構築。「あなたが下すであろう決断を、(AIが)実際に下す」ことが可能になったとされる。