三井住友建、麻布台ヒルズ住宅750億円損失の深層「日本一の高さ」の称号を求めた代償は大きすぎた梅咲 恵司様記事抜粋<
「とどのつまりは初動ミス。最初の段階でしっかり検証して、人材も投入して対応していれば、ここまで損失が大きくなることはなかった。悪い連鎖になってしまった」
準大手ゼネコン、三井住友建設のIR担当者はそう口にして肩を落とした。
三井住友建設は11月12日、現在施工中の国内大型建築工事で131億円の工事損失を計上すると公表した。それに伴い2024年度の最終損益は80億円の赤字になる見通しだ(従来は45億円の黒字予想)。2021年度から2年連続で最終赤字を出した後、黒字へ復帰したが、再びの赤字転落となる。
損失を計上した施工中の工事とは、タワーマンション「麻布台ヒルズレジデンスB」のことだ。2023年11月に開業した大規模複合施設「麻布台ヒルズ」(東京・港区)に隣接し、来年8月に完成予定。地下5階・地上64階建て、約260メートルという日本一の高さを誇る超高層マンションとなる。
「身の丈」を超えた工事
これまでにも大幅な工程遅延が生じており、度重なる損失を計上していた。2021年度に219億円、2022年度に315億円、2023年度に92億円。今回を含めた累計損失額は757億円に上る。
関係者は一様に驚いている。「(工事の請負金額は600億円以上との見立てもあるため)売上高に匹敵するほどの金額が損失計上されたことになる」(中堅ゼネコンのベテラン社員)からだ。
「三井住友建設は『身の丈』を超えた工事を請け負った」。複数のゼネコン関係者はそう指摘する。
麻布台ヒルズのマンションは、大深度地下工事を伴う超高層建築物件で難易度が高い。そのため、「そもそもは麻布台ヒルズプロジェクトの主要施工業者であり、建築の名門として知られる清水建設の受注が自然な流れだった」(準大手ゼネコンの幹部)と言われる。
ただ、「高速道路や地下鉄がすぐ側で走っている、むちゃくちゃ難度の高い工事。清水は『ここはいいです(タワーマンションはいらないです)』と受注を見送ったようだ」(同)。
そこに飛びついたのが、三井住友建設だった。「当時は経営環境もいい状況で、経営トップも『いける』と判断したのだろう。『日本一の案件』という称号も欲しかったのかもしれない。会長・社長案件として、検討不足のまま進められた」(三井住友建設のIR担当者)
マンション工事では過去にもトラブル
「超高層マンションに強い」と定評のある三井住友建設だが、実のところ、建築工事において過去に何度かトラブルを起こしている。
もっとも波紋を広げたのは、2015年に横浜市の新築で起こした「傾きマンション」問題だ。基礎杭が支持層(マンションを支える固い地盤)に達していないことや施工データの改ざんが発覚。全棟の建て替えを強いられた。
この件をめぐっては、発注者の1社である三井不動産レジデンシャルから、三井住友建設と杭施工会社2社が建て替え費用等のおよそ500億円の訴訟を提起されている(現在も訴訟中)。
麻布台ヒルズのマンションで「背伸び」をした受注の代償は大きかった
2021年から2022年にかけて、地下工事が想定とは違うことがわかり工法の大幅変更を余儀なくされ、15カ月の工期遅延が生じた。2023年には、地上の躯体工事において施工図の誤りによる部材の不具合が発覚し、一部の設置済み部材の取り替えが必要になった。
「泣きっ面に蜂」のごとく、今回は建設コストの上昇が襲った。IR担当者は次のように説明する。
労務単価が想定の倍以上に
「当初の竣工予定時期から大幅に遅れているため、修正後の工期に間に合わせることを最優先した。そのために作業員などの人材をかき集めたところ、労務単価が想定の倍以上になった」
「今回の損失のほとんどが内装工事にかかる部分。クロス、天井、ボードなどを設置する作業員を集めるためにコストが発生した。こういった作業は機械化が進んでおらず、どうしても職人の手作業に委ねなければならない。とくに、3月ごろに向けてマンションの供給がピークになる時期でもあり、高い賃金を支払わないと集めることができなかった」
この工事は2000人を超える作業員が集まる大所帯だ。三井住友建設の社員も大量に投入されている。大型工事だけに、人手不足を背景とする作業員の労務単価の高騰をまともに受けた形となった。
気になるのは、工事損失の計上は「これで本当に終わりなのか」ということだ。
業界関係者からは「今後、発注者に対する巨額の違約金が発生するのではないか」(ゼネコンの内情に詳しい市場関係者)、「建設費高が続く状況下、1年先のコストまで十分に織り込んでいるのか」(準大手ゼネコンの幹部)といった声があがる。
三井住友建設のIR担当者は、「今般の見直しによって、完成までのコストはおおむね確定している。違約金については全部織り込んでおり、協力会社とも契約できているので作業員は確保できている」と強調する。
工事は現在、修正後の工程どおりに進捗し、内装仕上げ工事や外構工事などの付帯工事を中心に施工中。すでに8割近く進捗しているという。
多額の工事損失計上を受けて、同社は社長など取締役と執行役員の報酬を12月から4カ月減額する。受注前段階における審査体制の強化や採算性にこだわった取り組みなど再発防止策を徹底する。
内憂外患を抱えて正念場
しかし、三井住友建設はほかにも内憂外患を抱えている。
今年2月にはクーデター騒ぎが顕在化。メインバンクの三井住友銀行出身で2021年から社長だった近藤重敏氏が4月にその座を降りた。生え抜きの柴田敏雄専務(現社長)と当時の会長が結託して、三井住友銀行に社長交代の容認を求める書簡を送ったとされる。
大株主には物言う株主として知られる旧村上ファンド系の投資会社がいる。現在も株を買い増しており、保有比率は20%を超えた。問題が落ち着けば株主還元や他社との経営統合などを要求してくることが考えられる。
麻布台ヒルズのマンションを無事に完成させ、経営に安定性を取り戻すことができるのか。準大手ゼネコンの雄は正念場に立たされている。
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