3年で店舗数が10分の1に ワタミ本社の「から揚げの天才」も閉店
小林 直樹様記事抜粋<新型コロナウイルス禍でテイクアウト人気をリードしたワタミ運営のから揚げ専門店「から揚げの天才」。当時、1号店オープンから最速で100店舗達成と勢いがあったが、その後一転して閉店ラッシュに見舞われ、ピークからわずか3年で店舗数が10分の1に激減した。そして2024年11月、ワタミ本社が入居するビル1階で営業していた店舗も閉店した京急空港線の大鳥居駅(東京・大田)直結の駅ビル、大鳥居京急第一ビルには、居酒屋チェーン大手・ワタミの本社が入居している。
そのビル1階に、ワタミが経営する2つのチェーン店が店を構える。韓国チキンのチェーン店「bb.q オリーブチキンカフェ」大鳥居店と、唐揚げ専門店「から揚げの天才」大鳥居店だ。だが「から揚げの天才」大鳥居店は、2024年11月21日に閉店
大鳥居店は、大鳥居トレーニングセンター店とも呼ばれる直営店で、研修や新メニューのテスト販売などの役目を果たしてきた。その閉店は、単なる「1減」にとどまらず、事実上の白旗に映る。
大鳥居店のオープンは、新型コロナウイルス禍初年度の2020年6月だった。まだ十数店舗しかオープンしていなかった頃に開店した古参店の一つである。そこからわずか1年後の21年7月、下板橋店(24年5月に閉店)のオープンで店舗数は100店舗に到達。ワタミは「1号店のオープンから2年7カ月での100店舗達成は日本の外食チェーンで最速記録」とプレスリリースも出した。
ちなみに、当時更新したそれまでの最速100店舗出店記録ホルダーは、約2年8カ月の「いきなり!ステーキ」(運営:ペッパーフードサービス)だった。
21年10~11月には店舗数が110店舗超に達したが、そこがピークだった。不採算店の閉店と出店ペースの鈍化によって店舗数は純減に転じ、22年4月に100店舗を割り込んだ
以降も閉店ペースは加速。1年後の23年3月に50店舗割れ、24年3月には30店舗割れと、閉店ラッシュに見舞われた。
そして24年11月21日、大鳥居店の閉店で残り店舗数は14店舗に。今後も11月28日にサンストリート浜北店(浜松市)、12月8日に阪急塚口南口店(兵庫県尼崎市)と鹿骨店(東京・江戸川)の閉店が決まっている。実に3年間で10分の1の規模に縮小した格好だ。
閉店ラッシュを招いた要因として、以下の5つが挙げられる。
・コロナ禍が明けてテイクアウト需要が減退
・同業他社チェーンの乱立による店舗数過多
・原材料費、店舗運営費の高騰による利幅の低下
・商品価格の値上げによる競争力の低下
・人手不足、人件費の上昇
同店の代表的なメニューである「デカから(白・黒)」は当初、1個99円(税込み106円)という安さを売りにしていた。それが22年6月に税込み120円に、23年3月には同150円に値上げしていた。
閉店ラッシュが続いたこの3年、ワタミは決して手をこまねいていたわけではない。
・22年7月、テレビ朝日系ドラマ「六本木クラス」のコラボ商品を限定販売
・22年12月、グルメブロガー監修の「ビーフシチューから揚げ」を限定販売
・23年11月、「あなたが選ぶから揚げ総選挙」を開催
・24年3月、「焼肉弁当」を導入
・24年6月、「韓国フェア」を開催。「韓国風から揚げ」「韓国のり弁」を販売
・24年9月、期間限定で「月見焼肉弁当」「月見しょうが焼き弁当」を販売
といった具合に、弁当強化の方針の下、新メニューの投入やプロモーション企画を実施してきた。
それでも閉店に歯止めがかからなかった。新規出店は22年7月の磐田今之浦店(静岡県磐田市)のオープン以来、ストップしており、ワタミのフランチャイズオーナー募集サイトでも、から揚げの天才は募集を停止している。
競合の乱立とブームの一服で唐揚げ専門店は多くが苦戦中だが、NIS(大阪市)が展開する「鶏笑」は全国160店舗超の規模を維持している。市場環境のせいばかりにはできないだろう。
捲土(けんど)重来を期すワタミの目線は「次」に移っている。
「から揚げの天才」直営店は撤退へ
24年10月に日本法人を買収し、国内でフランチャイズチェーン(FC)を展開する契約を結んだ「SUBWAY(サブウェイ)」事業だ。
国内のサブウェイは、サントリーホールディングスが日本サブウェイを設立して長らく運営し、14年には500店舗弱まで店舗を広げていた。だが、FC契約が終了した16年に株式を売却し、米サブウェイが運営する形になって以降、店舗数は漸減。現在は約180店舗に縮小している。
渡辺美樹会長兼社長は、サブウェイ事業の買収会見、および中間決算発表の席上、「10年後の2034年までに1065店舗」「20年かけて3000店舗を目指す」という構想を明らかにしている。3000店舗は、現在のマクドナルドの国内店舗数の水準だ。
もっとも、から揚げの天才は100店舗が目前だった21年当時、「1年後に300店舗」を目標にしていた。また現在、全国16店舗を展開している「bb.q オリーブチキンカフェ」も、かつては数百店舗規模の出店目標を掲げていた。見込んだ市場のポテンシャルと実現度合いのギャップは大きい。
それでも、“野菜のサブウェイ”の異名を持ち認知度も高いサブウェイと、全国に有機農場「ワタミファーム」を展開するワタミの相性は良さそうだ。弁当宅配事業「ワタミの宅食」も成功させている同社としては、非居酒屋ジャンルで外食FCの柱を持ちたいところ。サブウェイ事業は、「から揚げの天才」の本部長が異動して率いるという。
ワタミ広報は、「選択と集中の経営判断から『から揚げの天才』の直営店については撤退の方針で、一部の店舗はサブウェイに転換を計画している。『から揚げの天才』のFC店は継続する店舗もあるため、全面撤退ではない」と回答した。
チキンFC事業の経験を生かしてサンドイッチFC事業を飛躍させることができるか。ワタミ流サブウェイのチャレンジに注目が集まっている。
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